照井りょう(てるいりょう)千葉県松戸市

【政策提言】松戸の農地を、次の世代へ|耕作放棄地を防ぐために市ができること

松戸市の農地が、静かに、しかし確実に消えています。

市が2025年8月にまとめた「松戸市都市農業振興計画 中間見直し」を読み込むと、その実態が数字で見えてきます。この記事では、計画に記された一次データをもとに現状を整理し、そのうえで現実的にできる政策を提案します。

■ 数字で見る、松戸の農業のいま

農地は15年で3割減りました。経営耕地面積は2005年の685haから2020年の468haへ、217ha・31.7%の減少です。1960年には2,967haありました。

農家も減り続けています。総農家数は906戸(2005年)から662戸(2020年)へ26.9%減。販売農家に限れば36.3%減と、減少幅はさらに大きくなっています。
そして基幹的農業従事者のうち60歳以上が68.8%を占めます。

一方で、松戸の農業には明確な強みもあります。耕地面積1haあたりの農業産出額は680万円で東葛飾地域1位。野田市や柏市の3倍前後です。

つまり松戸の農業は、儲からないから消えているのではなく、担い手がいないから消えているという側面が強いというのが政策の出発点になると考えております。

■ 「耕作放棄地を就農で解消」が、そのままでは成り立たない理由

ここで、正確に押さえておくべき点があります。

耕作放棄地の面積は85ha(2005年)から88ha(2015年)と、10年間で3haの微増にとどまっています。一方、農業委員会の農地パトロールで確認された遊休農地は3.7ha(2023年度)です。

この2つの数字は定義が異なります。
耕作放棄地は農家の意思に基づく統計上の区分、遊休農地は農地法に基づき現況を調査したもの。
荒れ果てた農地が市内に大量にあるという状態ではない、ということです。

ですから「耕作放棄地を就農支援で解消する」という発想そのものは、規模の面で政策の柱にはなりません。

本当の問題は、これから起きます。農業者アンケートでは、今後10年間で耕作放棄地になる可能性のある農地が「ある」との回答が42.9%。10年後の経営耕地面積について「縮小」と答えた農業者は59.6%にのぼります。他方、市民の82.9%は農業体験を希望しています。

松戸市が向き合うべきは、すでに荒れた農地の再生ではなく、これから荒れる農地の発生を防ぐことです。
時間との勝負であり、しかも今ならまだ農地として使える状態で引き継げます。

■ 新規就農者は、年に1人から3人

では、担い手は入ってきているのでしょうか。計画に掲載された新規就農者数は、6年間で13人。そのうち外部からの新規参入は1人だけです。

この数字が意味するのは明確です。松戸の農業は、農家の子どもが継ぐかどうかにほぼ全面的に依存している。後継者がいない農家の農地は、そのまま消えていきます。

同時に、明るい材料もあります。農業との関わりや経験がある市民は77.6%。「特にない」との回答は37.8%から14.0%へ大きく減りました。市民の側に、農業への関心は確実にあるのです。

この関心と、担い手不足。この二つがつながっていないことが、松戸市最大の機会損失だと考えます。

■ 提言1:「いきなり独立」ではなく、階段を作る

新規就農の失敗は、たいてい入口の設計に原因があります。
農業未経験の人が、いきなり農地を借りて生計を立てるのは無謀です。

そこで、関心から体験、労働、雇用、独立へと進む階段を、市が制度として用意することを提案します。

すでに素材は揃っています。市民農園は23か所2,432区画、オーナー農園は770人772区画の申込みがあり、体験農園も実施されています。
ここまでは体験の段階です。

足りないのは、その先です。
計画にも援農ボランティア団体への支援策の検討が挙げられていますが、検討段階にとどまっています。
農業者側も援農ボランティアの活用を実施したい交流の上位に挙げており、需要と供給は一致しています。

具体的には、援農ボランティアの登録とマッチングを市が一元的に担うこと、一定時間以上の活動者には有償アルバイトへ移行するルートを示すこと、雇用就農を受け入れる農家へ人件費を補助すること。この三段階です。

いきなり就農者を増やすのではなく、農業に触れている市民の層を厚くし、その中から自然に担い手が出てくる構造を作る。これが都市農業に合ったやり方だと考えます。

■ 提言2:制度が変わったことを、徹底的に周知する

実は、新規参入の法的なハードルはすでに大きく下がっています。

下限面積要件が廃止されました。
かつては50a以上(市街化区域は10a以上)の農地を耕作することが権利取得の条件でしたが、農地法の改正により令和5年4月1日から廃止されています。
小さな面積からでも参入できるようになったのです。

生産緑地も借りられます。
2018年の都市農地の貸借の円滑化に関する法律により、所有者以外の意欲ある農業者や事業者が生産緑地を借りて営農できるようになりました。
松戸市の生産緑地は119ha・506地区(2022年)あります。

貸借の窓口も変わりました。
2024年10月から、従来の農地銀行が農地バンクへ移行し、農地中間管理機構を含む連携体制が構築されています。

制度は整いつつあります。にもかかわらず新規参入が年に1人以下という状況は、制度の不足ではなく、周知と伴走の不足を示していると考えております。

提案するのは、これらを一枚にまとめた「松戸で農業を始める方法」のガイドと、農政課・農業委員会・JAをつなぐワンストップ窓口です。
制度が分かれていることは、始めたい人にとって関係ありません。

■ 提言3:出口(販路)を先に用意する

新規就農者が最も苦労するのは、実は栽培ではなく販売です。

ここで松戸市には強力な武器があります。学校給食です。
市はすでに2018年から松戸えだまめを小学校給食に提供し、2025年からは矢切ねぎも導入しています。

給食は、量と時期が読める安定した販路です。
新規就農者にとって、初期の数年間これが確保できるかどうかは決定的な違いを生みます。

提案は、新規就農者向けに給食納入枠を一定量確保すること。
地産地消の推進、食育、担い手支援を同時に達成できます。
市民アンケートでも農業行政に期待する役割の上位に地産地消の推進が挙がっており、市民の理解も得やすいはずです。

■ 提言4:初期費用と「摩擦」への支援

耕作されなくなった農地を再び使えるようにするには、抜根や整地、土壌改良の費用がかかります。
ここを新規就農者が自己負担するのは重い。農地再生の初期費用補助を設けるべきです。

もう一つ、都市農業特有の問題があります。
市に寄せられる農業に関する市民からの相談は、2018年から2023年で年平均43件程度。内容は雑草、土砂流出、土埃などです。
住宅に囲まれた農地で営農する以上、近隣との関係は避けて通れません。

新規参入者は地縁がないぶん、この摩擦に弱い。
防塵ネットや緩衝帯の整備支援に加え、地域への橋渡しを市が担うことが必要です。鳥獣被害も年間約392万円(2023年度)発生しており、対策の継続も欠かせません。

■ 提言5:計画に「新規就農者数」の目標を入れる

最後に、計画そのものへの提言です。

中間見直しで設定された数値目標を見ると、農業後継者の創出(セミナー参加者数8人から20人)、認定農業者数(174から180経営体)、利用権設定面積(29.6haから31.8ha)、遊休農地面積(3.7haから1.8ha)などが並びます。

しかし、新規就農者数そのものの目標がありません。

測っていないものは、改善されません。
年に1人から3人という現状を踏まえ、たとえば2028年度までに年5人、うち新規参入2人といった目標を掲げるべきです。
数字を置けば、達成状況が検証され、施策が動きます。

■ 誠実に付け加えるべきこと

就農支援だけで農地が守られるわけではない、という点も書いておきます。

農業者が農地保全に必要な取組みとして最も多く挙げたのは、相続にかかる税負担の軽減と固定資産税等の税負担の軽減でした。
これは国の税制の問題であり、市単独では解決できません。また、農業産出額は2017年以降で18.5億円・29.6%減少しています。価格の問題も大きいと考えています。

就農支援は万能薬ではありません。
それでも、税制が変わるのを待つ間にも農業者は高齢化し、農地は失われていきます。
市の権限でできることから着手するという意味で、担い手の入口を広げることには十分な意義があると考えます。

■ 補論:外国人材という選択肢について

労働力不足の議論では、外国人材の活用も論点になります。
制度上、特定技能「農業」の在留資格では派遣形態での受入れが認められており、季節ごとに繁忙期が異なる農業の実情に対応できる仕組みになっています。

ただし、松戸のように経営規模の小さい農家が中心の地域では、受入れに伴う手続きや住居の確保、日本語での指導体制の負担が大きく、個々の農家が単独で受け入れるのは現実的とは言えません。
導入を検討するなら、JAや協同組合による共同受入れなど、負担を分散する仕組みとセットで議論する必要があります。

入管手続きに関わる立場から言えば、制度を知らないまま人手が足りないと言い続けるのも、制度の限界を知らずに外国人材を入れれば解決すると言うのも、どちらも不正確です。事実に基づいた議論が必要な分野です。

■ まとめ

松戸の経営耕地面積は15年で217ha・31.7%減、農家数も26.9%減。ただし1haあたり農業産出額は東葛飾1位で、儲からない農業ではありません。

遊休農地は3.7haで、既存の荒廃地対策は政策の柱になりません。本当の課題は、42.9%の農業者が10年内に耕作放棄地になる可能性があると答えている予備軍です。

新規就農者は6年で13人、うち外部からの参入は1人。一方で市民の82.9%が農業体験を希望しています。

提言は5つ。体験から独立までの階段を作ること、下限面積廃止などの制度変更を周知すること、学校給食で出口を用意すること、再生費用と近隣摩擦を支援すること、新規就農者数を計画の目標に加えることです。

農地は、一度宅地になれば二度と戻りません。まだ間に合ううちに、動くべきだと考えます。

(出典:松戸市「松戸市都市農業振興計画 中間見直し」2025年8月、松戸市農業委員会「農地の売買及び貸し借りについて」ほか。データは同計画に記載されたものです)

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