照井りょう(てるいりょう)千葉県松戸市

【市政コラム】日本住宅公団のまち・常盤平はこれからどうなる|60年の団地が、いま再生に動き出した

こんにちは。闘う行政書士の照井りょうです。

松戸市常盤平。この街の成り立ちを知る人は、意外と少ないかもしれません。

1955年に発足した日本住宅公団が、東京近郊の住宅不足を緩和するために選んだ土地のひとつが、松戸市の金ケ作・五香地区でした。
新京成線の開通などで好条件が整い、全国主要都市周辺1,000ヘクタールの宅地開発事業の対象に選ばれ、川崎市生田、日野市日野、八千代市八千代台などと並んで団地建設が進められたのです。

1956年の金ケ作土地区画整理事業によって常盤平団地が完成し、1960年から管理が開始されました。今年で入居開始から66年になります。

そしていま、この街が大きく動き始めています。

■ かつて1万5,000人、高齢化率ゼロの街だった

団地の歴史を振り返ると、その変化の激しさに驚かされます。

自治会の記録によれば、管理戸数は5,359戸。1960年4月1日の入居開始当時、団地の人口はおよそ1万5,000人で、高齢化率は0%でした。
住民は30代の若い人たちが占めていて、活気に満ちていたといいます。
ところが50年後の2010年には、人口が約9,000人に減り、高齢化率は38.4%に達しました。

その後も高齢化は進み、市の資料では、常盤平団地地域の高齢化率は約4割を超え、市内全体から見ても高齢化が進展し、一人暮らしの方が多い地域であることが指摘されています。

住戸数も減っています。2026年3月末基準のURの団地別整備方針では、常盤平団地は「ストック再生」に分類され、管理戸数は4,822戸とされています。

かつて日本の高度経済成長を象徴した「憧れの団地」が、半世紀余りで日本の高齢化を象徴する場所になりました。
常盤平は、日本社会の縮図のような街なのです。

■ 全国に先駆けて、住民自身が動いた

ここからが、常盤平の本当にすごいところです。

2000年代、団地では孤独死が相次ぎました。誰にも看取られず、長期間発見されないという事態が現実に起きたのです。

これに対して動いたのは、行政ではなく住民でした。常盤平団地自治会と常盤平団地地区社会福祉協議会が中心となって「孤独死ゼロ作戦」を策定し、住民とともに考え、住民とともに対応する活動を推進したのです。

具体的な取り組みは、実によく練られています。

2007年に始まった「あんしん登録カード」は、本人の合意のもと約700世帯が登録し、家族構成、緊急連絡先、かかりつけ医などの情報を記載して団地社協が保管するというもの。
住民からは、カードを提出すること自体が安心感につながるという声が多くあるといいます。

同じ2007年に開設された「いきいきサロン」は、人々の居場所づくり、仲間づくりの拠点です。
仲間がいない、近隣と関わりがない、地域の催しに参加しない、あいさつしない、他人に関心を持たない。
そうした「ないないづくし」を「あるあるづくし」に変えようという発想から生まれました。サロンは年間360日、団地中央商店街で常設されています。

2006年の松戸市地域福祉計画には、団地に設置された「まつど孤独死予防センター」が明記され、厚生労働省も常盤平の取り組みを紹介するなど、全国の地域福祉で注目されました。

孤独死という言葉が全国に広まる前から、この団地は問題と向き合い、仕組みを作り上げてきた。これは松戸が全国に誇れる財産だと思います。

■ そして2025年、再生が動き出した

長く課題を抱えてきたこの地域で、大きな転換点が訪れました。

2025年2月18日、松戸市はUR東日本賃貸住宅本部と、常盤平団地と周辺地域の再生に向けて連携する覚書を締結しました。

連携するのは、常盤平駅周辺地域の公共公益施設やインフラなどの再編整備、URのストック活用・再生ビジョンに基づくストック再生の推進、そしてまちづくりの機運醸成の3点です。
市は同じ2月に「常盤平地域のまちづくり方針」を策定しており、対象エリアは常盤平団地を中心とした円状で、五香駅と八柱駅、21世紀の森と広場も含まれています。

締結にあたり、当時の本郷谷健次市長は常盤平団地の建設を、日本の高度経済成長のスタートを切る象徴的な事業であり市発展の礎になったと評価する一方、団地の高齢化が進み学校の存続も危ぶまれていると現状の課題を指摘。
若い人たちが住める街になり、団地の再生で松戸が元気になる元年になってほしい、20年、30年先を見据えたまちづくりに取り組むと述べました。

その後も動きは続いています。2025年8月、URは常盤平団地周辺エリアについて、魅力向上のためのアイデアや提案を民間事業者から募集すると発表しました。
教育や子育て、健康・医療といった都市機能、交通ネットワークや緑といった都市空間、防災や地域連携、ブランディングなどを提案項目として想定しています。

そして2025年11月には、市とURが「常盤平SONO(園)プロジェクト」を始動させました。
SONO(園)という名称には、常盤平のみどりに着想し、庭師が植物を観察して豊かに育つよう手を入れるように、この地域の暮らしを、地域を気にかけるみんなで手を加えながら次の世代につないでいく、という思いが込められています。
まち歩きとトークイベント、キッチンカーの出店など、地域の機運を高める取り組みが続いています。

市役所には常盤平駅周辺まちづくり推進課という専門の部署も置かれ、体制も整えられました。

■ これから問われる4つのこと

再生が動き出したことは前向きなニュースです。ただ、これから議論すべき論点も見えています。

ひとつは、建て替えの範囲と時期です。
2026年時点でも具体的な再編内容は検討段階で、建て替えの範囲は未定とされています。
4,822戸という規模を考えれば慎重な検討は当然ですが、居住者にとっては生活設計に関わる問題です。いつ、どこが、どうなるのか。情報がないこと自体が不安になります。

ふたつめは、高齢の居住者への配慮です。
建て替えとなれば住み替えが発生します。家賃はどうなるのか、引っ越しの負担を誰が担うのか、長年築いた近所付き合いは維持されるのか。
高齢化率が4割を超える地域で、この問題を軽く扱うことはできません。

みっつめは、多世代化と既存コミュニティの両立です。
若い世代に入ってもらうことは再生の柱ですが、それは今住んでいる人を入れ替えることではありません。
孤独死ゼロ作戦を築き上げてきた自治会の蓄積は、新しい住民にとっても財産になるはずです。世代が混ざる過程をどう設計するかが問われます。

よっつめは、みどりの継承です。
常盤平といえば桜並木。桜並木や緑地の保全を図るとともに、交流機会の創出を図ることも掲げられています。
建て替えは、この街の最大の魅力を損なう可能性も、逆に活かす可能性も持っています。

■ 「衰退」ではなく「引き継ぎ」の物語として

常盤平の話は、しばしば高齢化と孤独死の文脈だけで語られます。実際、全国メディアもそうした取り上げ方をしてきました。

しかし、この街を丁寧に見れば、別の物語が浮かび上がります。
日本で最初に大規模団地の高齢化に直面し、日本で最初に住民自身が仕組みを作って立ち向かった街。
そこには、これから同じ問題に直面する全国の団地が学ぶべき知恵が蓄積されています。

再生とは、ゼロから作り直すことではありません。
60年かけて積み上げてきたものを、次の世代に渡せる形に整えることです。

計画はまだ検討段階です。だからこそ今、住民の声が反映される余地があります。
説明会やイベントの情報は市のホームページで随時公開されているので、この地域に関わりのある方は、ぜひ目を向けてみてください。

問い合わせ先は、松戸市街づくり部 常盤平駅周辺まちづくり推進課(電話047-710-5523)です。

(出典:松戸市「常盤平地域のまちづくり方針」「常盤平SONO(園)プロジェクト」報道資料、UR都市機構プレスリリース、常盤平団地自治会・地区社会福祉協議会の記録、東京新聞、健康長寿ネットほか。情報は2026年9月時点)

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