外国人の出産と公的保険 ― 制度への「ただ乗り」を許さないために、今こそ厳格化を
2026年9月28日
こんにちは。行政書士の照井遼です。
私は日頃、在留資格の変更や更新など、外国人の方の入管手続きを専門に扱っています。
日々多くの外国人の方と接する中で、私が強く感じていることがあります。
それは、日本の公的医療保険、特に出産に関する給付には、制度の「すき間」を突いた利用を許してしまう構造的な問題がある、ということです。
今回は、この問題と、なぜ厳格化が必要なのかについて書きたいと思います。

今の制度の仕組み
日本では、3か月を超えて在留し住民登録をした外国人は、国民健康保険か勤務先の健康保険に加入します。
加入者が出産すると、子ども1人につき原則50万円の「出産育児一時金」が支給されます。
外国人も日本社会の一員として保険に加入し、同じ給付を受ける。
この原則そのものは正しいと私は考えています。問題は、「負担」と「給付」のバランスが崩れやすい仕組みになっている点です。
問題① 加入してすぐに満額を受け取れる
日本の国民健康保険には、給付を受けるための加入期間の要件がありません。来日して住民登録をし、数か月後に出産すれば、その時点で50万円の一時金が支給されます。
長年保険料を払い続けてきた人も、加入して間もない人も、受け取る金額は同じです。
出産を目的に来日し、給付を受けて帰国するという使い方も、制度上は防げません。
問題② 初年度の保険料がほぼ最低額になる
国民健康保険料は、前年の所得をもとに計算されます。来日直後の方には日本での所得記録がないため、保険料は最低水準になります。
つまり、「ほとんど負担せずに、満額の給付を受ける」ことが可能になっているのです。これを公平と言えるでしょうか。
問題③ 保険料の滞納と海外出産の請求
外国人の国民健康保険料の納付率は、日本人と比べて大きく下回っていると報じられています。
また、一時的に海外へ渡航して出産した場合も一時金の対象になります。
しかし、外国の出生証明書や医療機関の書類が本物かどうかを自治体が確かめるのは容易ではありません。
実際に不正請求が問題となり、国が各自治体に審査の強化を求めた経緯があります。
隣国・韓国はすでに手を打っている
同じ社会保険方式をとる韓国は、この問題にいち早く対応しました。
外国人の健康保険加入に6か月の居住要件を設けた
対象者を強制加入にした
保険料を滞納すれば在留期間の延長審査で不利になる仕組みを導入した
きっかけは、短期間だけ加入して高額な医療を受け、すぐに出国する「食い逃げ」が社会問題になったことでした。
日本も同じ課題を抱えている以上、学ぶべき点は多いはずです。
「厳しくすると妊婦が困る」という意見について
厳格化に対しては、「妊婦が健診を受けられなくなり、母子の健康が損なわれる」という反論があります。母子の健康を守ることは、もちろん大切です。
しかし、ルールを整えることと、必要な医療を拒むことは別の話です。
問われているのは、医療を受けさせるかどうかではありません。
「誰が、どれだけ負担するのか」というルールの問題です。妊婦健診の案内や相談体制の充実は、厳格化と並行して進めればよいのです。
私が必要だと考える見直し
一時金の支給に、一定の加入期間の要件を設けること(韓国の6か月を一つの目安に)
来日初年度の保険料の算定方法を見直すこと(所得記録がないことが、そのまま最低額につながらないように)
保険料の滞納状況を在留審査へ確実に反映すること(すでに準備が進められていますが、実効性のある運用が欠かせません)
海外出産に対する給付の審査を、全国で統一して厳格化すること
また、正常分娩の費用を保険から直接支払う新しい制度への移行も決まっています。
窓口での負担がなくなる分、制度の入口となる加入要件を今のうちに整えておかなければ、問題はさらに大きくなりかねません。
厳格化は、真面目な外国人を守るためでもある
私が強調したいのは、厳格化は外国人を排除するためのものではない、ということです。
私の事務所に相談に来られる外国人の多くは、日本で働き、税金も保険料もきちんと納めています。
一部の「ただ乗り」が放置されれば、疑いの目を向けられるのは、むしろこうした真面目な人たちです。
ルールを守る人が報われ、守らない人が得をしない。
その当たり前の仕組みを整えることこそが、外国人と日本人がともに安心して暮らせる社会への第一歩だと、私は考えています。