照井りょう(てるいりょう)千葉県松戸市

松戸市の保育は「量から質へ」|待機児童ゼロの次に来る問題

こんにちは。闘う行政書士の照井りょうです。

松戸市は、かつて待機児童の多い街でした。それが保育士確保策と施設整備によって改善し、いまや「保育園に入れない街」という印象はほとんど残っていません。

では、課題は解決したのでしょうか。

市が公表している最新の数字を見ると、答えは「問題の種類が変わった」だと思います。今回は、その中身を整理します。

■ 数字で見る、松戸市の保育のいま

令和8年9月1日現在、市内の保育所・認定こども園の定員は7,594人に対して入所児童数は7,437人。入所率は97.93%です。小規模保育事業は定員1,990人に対して1,930人で96.98%。

合わせると、定員9,584人に対して9,367人が通っています。市内には200を超える認可施設があり、ほぼ埋まっている状態です。

量としては、必要な受け皿はおおむね整ったと言っていいでしょう。

■ ところが、園ごとの差は極端です

全体で98%という数字の内訳を見ると、風景が変わります。

入所率が100%を超えている園が多数ある一方で、44%、52%、55%、62%、72%、73%といった園も存在します。定員120%の園と、定員の半分も埋まっていない園が、同じ市内に同時に存在しているのです。

これは何を意味するか。保護者は「どこでもいいから入りたい」のではなく、「この園に入りたい」と考えて選んでいるということです。

待機児童の時代は、数を増やせば解決に近づきました。しかし選ばれる園と選ばれない園が分かれている以上、次に問われるのは中身です。

■ 松戸を支えてきた「松戸手当」

ここまで来られた最大の要因は、保育士の確保策でした。

松戸市は、保育園等で正規職員として働く保育士に対し、給料とは別に市が上乗せ額を補助する制度を持っています。
通称「松戸手当」です。支給額は勤続年数に応じて決まり、1年目から12年目で月額45,000円、その後は勤続に応じて上がり、20年目以降は78,000円になります。

これに加えて、法人が借り上げた保育士用宿舎の家賃を補助する制度(補助率4分の3、上限82,000円、最大4年間)、保育士修学資金の貸付、保育士の子どもの入所優遇なども用意されています。

月額4万5千円の上乗せは、他市と比べても手厚い部類です。
実際、この制度の導入後、他市や東京へ流出していた保育士に歯止めがかかったと当時の担当課長が語った記録も残っています。

松戸市の待機児童対策が評価されてきた背景には、この「人への投資」がありました。

■ しかし、いくつかの課題が残っています

課題1 松戸手当が届かない人がいる

市の案内には重要な注意書きがあります。
松戸市内のすべての保育園等が松戸手当を支給しているわけではないこと。
そして、勤務先と直接雇用契約を結んでいない保育士、つまり派遣職員は対象外であることです。

同じ市内で、同じように子どもを預かっていても、園によって、雇用形態によって、月4万5千円の差が生まれる可能性がある。この構造は、保育の質を考えるうえで見過ごせません。

保育現場では、派遣や非常勤に依存する割合が高まっています。
手当の対象から外れた人たちが定着しなければ、園によって経験の蓄積に差が出てしまいます。

課題2 「質のガイドライン」が2017年のまま

松戸市は「保育所保育 質のガイドライン」を策定しています。
保育の質の向上を目指し、平成30年4月からの新しい保育所保育指針を踏まえて作られたものです。小規模保育事業や障害のある子の保育など、松戸市が力を入れている分野にも焦点を当てた、意欲的な内容でした。

ただ、策定は2017年です。それから9年が経ちました。

この間に、こども家庭庁が発足し、こども基本法が施行され、保育士の配置基準は76年ぶりに見直されました。4歳・5歳児は30人に1人から25人に1人へ、3歳児は20人に1人から15人に1人へ。さらに「こども誰でも通園制度」も始まります。

保育をめぐる前提が大きく変わったのに、市のガイドラインはそのままです。改定の必要があると考えます。

課題3 定員割れの園の経営が苦しくなる

認可保育施設の収入は、在籍する児童数に応じて決まります。定員の半分しか埋まっていない園は、それだけ収入が減ります。

収入が減れば、まず削られるのは人件費です。経験のある保育士を確保できなくなり、質がさらに下がり、選ばれなくなる。この悪循環は、全国の少子化地域で実際に起きています。

松戸市でも、すでに入所率50%を下回る施設が出ています。放置すれば、数年のうちに閉園という話になりかねません。

課題4 保護者が「質」を比べられない

保育の質が問われる時代になったのに、保護者が園を比較する材料はほとんどありません。

見学に行けば雰囲気は分かります。
しかし、職員の定着率、経験年数の構成、第三者評価の受審状況、研修の実施状況。こうした情報は、市のサイトからは読み取れません。

結果として、口コミと立地で選ぶことになります。これでは、努力している園が報われません。

■ 提案1 質のガイドラインを改定し、期限を決めて見直す

まず、9年前のガイドラインを現在の制度に合わせて改定すべきです。新しい配置基準、こども誰でも通園制度、医療的ケア児への対応、外国籍家庭への配慮。反映すべき内容は多くあります。

あわせて、「おおむね5年ごとに見直す」といった改定周期を明記すること。これがないと、また放置されます。

■ 提案2 松戸手当の「届かない部分」を埋める

すべての園が支給しているわけではないという現状について、まず実態の把握と公表が必要です。
どの園が支給しているのかが分かれば、保護者にとっても保育士にとっても判断材料になります。

そのうえで、派遣・非常勤職員への支援のあり方を検討すべきです。
直接雇用を前提とする制度設計には合理性がありますが、現実として派遣に依存せざるを得ない園がある以上、そこで働く人が制度の外に置かれ続けるのは望ましくありません。

■ 提案3 質を「見える化」する

第三者評価の受審を促進し、結果を市のサイトで一覧できるようにすることを提案します。受審費用の補助や、受審した園への加算といった誘導策も有効です。

職員の平均勤続年数や定着率といった基礎データの公表も検討に値します。数字が出れば、園も改善に動きます。

保護者にとって最大の関心は「安心して預けられるか」です。その判断材料を提供することは、行政の重要な役割だと考えます。

■ 提案4 定員割れを「余力」として使う

空きがある園は、悪い園とは限りません。立地や送迎の便で選ばれにくいだけの場合も多くあります。

その空きを、新しい役割に転換できないでしょうか。

一時預かりの拡充、こども誰でも通園制度の受け皿、医療的ケア児や障害児の受け入れ枠、産後の親子が立ち寄れる地域の居場所。いずれも人手と場所が要る事業であり、余力のある園と相性がいい。

市はすでに送迎保育ステーションや土曜日の共同保育といった仕組みを持っています。
定員割れを経営難として放置するのではなく、地域の資源として位置づけ直す発想が要ります。

■ 提案5 外国籍家庭への対応を体系化する

市内の外国人住民は増え続けており、保育園を利用する外国籍家庭も確実に増えています。

入園申込みの書類は複雑で、日本語が十分でない保護者には高い壁です。
給食のアレルギーや宗教上の配慮、園からの連絡帳のやりとりも課題になります。

入管手続きに関わる立場から言えば、制度が使えないのは意欲の問題ではなく、情報が届いていないことによる場合がほとんどです。
多言語の入園案内、通訳の確保、やさしい日本語での連絡。これらは質の一部として整理されるべきだと考えます。

■ 提案6 保育士の事務負担を減らす

質の議論は、しばしば現場への要求増加になります。しかし人が増えないまま求めるものだけが増えれば、質は下がります。

ICTの導入支援、書類の様式統一と簡素化、市への報告事項の見直し。子どもと向き合う時間を増やすための引き算が必要です。

■ 「入れた」で終わらせない

待機児童対策には、分かりやすい成果指標がありました。待機児童数ゼロ。数字が出るので、達成も失敗も明確です。

質には、そういう指標がありません。だからこそ後回しにされやすい。

しかし保護者が本当に願っているのは、入れることではなく、安心して預けられることです。子どもが毎日を楽しく過ごし、丁寧に見てもらえること。

定員の98%が埋まった今、松戸市の保育政策は次の段階に入っています。量を追う時代に作った仕組みを、質を支える仕組みへ組み替える。それが、これからの5年の課題だと考えます。

問い合わせ先は、松戸市 子ども部 保育課(電話047-366-7351)です。

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