照井りょう(てるいりょう)千葉県松戸市

松戸市の自転車事故はなぜ減らないのか|ヘルメット補助のその先へ

松戸市で令和7年に起きた交通事故は852件。死者は7人、負傷者は998人でした。

この数字だけを見ると、前年からほぼ横ばいです。しかし内訳を開くと、松戸の交通安全政策が向き合うべき相手がはっきり見えてきます。

■ 死傷者の23%が「自転車に乗っていた人」

令和7年の死傷者1,005人を、事故に遭ったときの状態別に分けると次のようになります。

四輪乗車中410人、自転車乗車中231人、歩行中227人、二輪乗車中136人。

自転車に乗っていて死傷した人が、歩いていて死傷した人より多いのです。全体の23%を占めます。

年代別に見ると、傾向はさらにはっきりします。

中学生以下の子どもの死傷者74人のうち、自転車乗車中が28人で最多。15歳から24歳の若者138人のうち、自転車乗車中が55人で最多です。

一方、65歳以上の高齢者134人では歩行中57人、自転車乗車中33人。高齢者は歩行中の被害が多く、若い世代は自転車での被害が多いという構図になっています。

つまり松戸市において、子どもと若者にとって最も危険な移動手段は自転車だということです。

■ 事故が起きているのは、通学と帰宅の時間帯

時間帯別の発生件数を見ると、8時から10時が112件、14時から16時が113件、16時から18時が110件、18時から20時が119件。

朝の通学・通勤時間帯と、夕方から夜にかけての帰宅時間帯に集中しています。日が短くなる秋冬は、この夕方の時間帯が暗くなるため、さらに危険が増します。

原因別では、安全不確認が383件で45%、前方不注意が152件で17.8%、動静不注視が115件で13.5%。

停止や徐行はしたが十分に確認しなかった、というケースが半数近い。これは、道路の構造や見通しの悪さとも無関係ではありません。

■ 2026年、自転車のルールが大きく変わった

ここで押さえておくべき制度の変化が2つあります。

ひとつは、令和8年4月から自転車の交通違反が交通反則通告制度、いわゆる青切符の対象になったことです。16歳以上が対象で、信号無視や一時不停止、通行区分違反などに反則金が科されます。これまで自転車の違反は、赤切符による刑事手続きか、指導警告で終わるかの両極端でした。その中間ができたことで、取締りは確実に増えます。

もうひとつは、令和8年9月1日から、中央線などのない生活道路における自動車の法定速度が時速30キロメートルに引き下げられたことです。狭い道での自動車の速度が下がれば、自転車と歩行者の安全は高まります。

そして、令和5年4月からすべての自転車利用者にヘルメット着用が努力義務となっています。ヘルメットを着用していない場合、頭部を損傷して死亡に至る割合は着用時の約2.2倍というデータもあります。

■ ところが、千葉県の着用率は全国ワースト2位

問題はここです。

市の資料によれば、千葉県のヘルメット着用率は6.5%で、全国ワースト2位という状況でした。努力義務化されても、ほとんどの人がかぶっていない。

この状況を受けて松戸市が始めたのが、自転車用ヘルメット購入費補助事業です。市内の販売店で3,000円以上の安全基準適合品を購入した場合に2,000円を補助するもので、販売協力店では店頭で2,000円引きになります。

市内在住で市税を滞納していないこと、この制度を利用したことがないことが条件です。

制度としては、着用の最初のハードルである価格を下げる、理にかなった設計です。ただし、ここにいくつかの課題があります。

■ 課題1 補助は「1人1回」

補助を受けられるのは1人1回限りです。

大人であれば問題ありません。しかし子どもは成長します。小学校低学年で買ったヘルメットは、高学年になれば合わなくなります。中学の自転車通学が始まるタイミングで買い替えが必要になる家庭も多いはずです。

サイズの合わないヘルメットは、安全性能を発揮しません。最も着用させたい層に、買い替えの支援がないという構造は見直す余地があります。

■ 課題2 予算枠と期限がある

この補助は予算額に達した時点で終了する仕組みです。年度ごとの受付期間も設定されています。

つまり、必要だと思ったときに制度が使えるとは限りません。新入学や進学のタイミングで必要になる家庭にとって、これは実務上の問題です。

■ 課題3 「走る場所」の議論が足りない

ヘルメットは、事故が起きたときの被害を軽くするものです。事故そのものを減らす対策ではありません。

自転車は原則として車道の左側を通行します。しかし松戸市には、自動車が行き交う狭い道が多く、車道を走ることに恐怖を感じる人は少なくありません。結果として歩道を走り、歩行者との接触リスクが生まれます。

市の交通安全計画でも、自転車の安全利用を促進するためには安全で快適な自転車通行空間の確保を積極的に進める必要があるとされています。方針としては明記されている。問題は、どこに、いつまでに、どれだけ整備するのかが見えないことです。

安全不確認が事故原因の45%を占めるという事実は、裏を返せば「確認しにくい道路構造」が多いということでもあります。啓発だけでは埋まらない部分です。

■ 課題4 青切符時代の周知が追いついていない

反則金の対象になったことを、どれだけの市民が知っているでしょうか。

特に高校生や大学生は、自転車が主要な移動手段でありながら、制度変更の情報に触れる機会が限られています。知らないまま違反を切られれば、反発だけが残ります。

取締りが強化される局面では、その前に周知を尽くすことが行政の役割です。

■ 提案1 ヘルメット補助を「成長」に対応させる

子どもについては、一定年数の経過後に再度申請できる仕組みを設けるべきです。他市には、前回の申請から数年度を経過すれば再申請できる制度を持つ例もあります。

また、小学校入学時や中学校の自転車通学開始時など、必要になるタイミングに合わせた案内も有効です。制度があることを知らなければ、使われません。

■ 提案2 通学路の危険箇所を公表し、改善の進捗を見せる

どの交差点で、どんな事故が起きているのか。市は千葉県警から提供を受けたデータを公表していますが、現状は市全体の集計にとどまっています。

地区別、あるいは主要交差点別のデータを公開できれば、住民は自分の生活圏のリスクを具体的に知ることができます。学校やPTA、町会が改善を要望する際の根拠にもなります。

そして、要望された箇所がその後どうなったのか。改善したのか、できないならなぜか。この進捗を公表するサイクルがあれば、対策は前に進みます。

■ 提案3 自転車通行空間の整備目標を数字で示す

矢羽根型の路面表示や自転車専用通行帯の整備を、年間何キロメートル進めるのか。目標を明示すべきです。

道路の拡幅は用地の問題があり、簡単ではありません。しかし路面表示や車道混在型の整備は、比較的短期間で実施できます。駅周辺や通学路といった優先順位を決めて着手すれば、数年で風景は変わります。

■ 提案4 実技型の交通安全教育を広げる

座学の講習は、残念ながら行動を変えにくいという指摘があります。

スタントマンが実際の事故を再現して見せる手法や、自転車シミュレーターを使った体験型の教育は、記憶に残りやすいとされています。中学・高校での実施を広げる価値があります。

青切符の制度についても、この機会に教育内容へ組み込むべきです。

■ 提案5 駐輪対策を安全政策と一体で考える

放置自転車は、歩道の通行を妨げ、視界を遮り、事故の遠因になります。

駅周辺の駐輪場整備は、利便性の問題であると同時に安全の問題でもあります。別々の部署が別々に扱うのではなく、自転車政策として統合的に設計する発想が必要です。

■ 事故を減らすのは、意識ではなく仕組み

交通安全の議論は、しばしば「一人ひとりの意識」に着地します。もちろん意識は大切です。しかし、意識に頼る政策は成果が測れません。

松戸市で毎年200人以上が自転車に乗っていて死傷している。その多くが子どもと若者である。この事実に対して必要なのは、呼びかけの強化だけではなく、走る場所を整え、頭を守る道具を行き渡らせ、危険な場所を特定して直していくという、地道な仕組みづくりだと考えます。

ヘルメット補助という第一歩は踏み出されました。次は、その先です。

問い合わせ先は、松戸市 市民部 市民安全課(電話047-366-7341)です。

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