町会・自治会は「縮める」ことで参加しやすくなる|アプリの次に必要な、仕事そのものの引き算
2026年10月1日
こんにちは。闘う行政書士の照井りょうです。
今年6月、自治会運営のデジタル化について書きました。
紙の回覧板をスマホに置き換え、会計や引き継ぎを可視化することで、共働き世帯や転入してきた若い世代でも参加しやすくなるという提案です。
あの記事の後、町会長を務められた方から、さらに踏み込んだご相談をいただきました。
役員のなり手がいない。働いている人ばかりで担い手が少ない。地元の会社や店が減り、役割を担う人もいなくなった。会員も減っている。「困っているのはゴミくらい。それも市が回収してくれる」という声すらある。子ども会も人が集まらない。
そのうえで、災害時の助け合いや見守りには町会の役割が残っているはずだが、これまでの仕組みをそのまま維持するのは限界ではないか。ゆるやかなつながりは残したい。ワーカーズコープのような仕組みで、地域の課題解決を仕事として担えないか。
現場で苦労された方だからこその、本質的な問いだと思います。
そして、この問いは私の前回の提案に対する、重要な宿題でもあります。
アプリを入れれば回覧板を回す手間は消えます。しかし、仕事の総量が変わらなければ、役員の負担は残り続ける。
デジタル化は「やり方」を変える手段であって、「何をやるか」を決める手段ではないからです。
今回は、その先の話を書きます。

■ まず現状の数字から
松戸市では令和7年4月1日時点で163,644世帯が町会・自治会に加入しており、加入率は63.68%です。
逆に言えば、3分の1以上の世帯が加入していません。
そして内閣府の調査では、自治会等の課題として「役員・運営の担い手不足」と「役員の高齢化」がいずれも8割を超えて上位を占めています。
東京都の調査では、町会長の約7割が70代以上という結果も出ています。
これは松戸市だけの問題ではなく、全国共通の構造的な課題です。
だからこそ、個々の町会の努力だけで解決できる段階を、すでに過ぎています。
■ 問い1 これからの町会・自治会に必要なものは何か
結論から言えば、必要なのは「残す機能を決めること」だと考えます。
町会が担っている仕事を並べると、掲示板の管理、環境美化、ごみ集積所の管理、防犯灯の設置と維持、防犯パトロールと見守り、各種レクリエーション。これに加えて、市や各種団体からの依頼事項が乗ってきます。
このうち、他に代わりがないものは限られます。
災害時の安否確認と初動。ごみ集積所の管理。防犯灯の維持。高齢者や子どもの見守り。
この4つは、行政が全世帯を個別に把握することが難しい以上、地域でなければ担えません。
前回の記事で「公助が届くまでの間、地域の命をつなぐのは共助」と書いたのは、まさにこの部分です。
逆に言えば、それ以外は「やめても地域は壊れない」と割り切ってよいと考えます。
■ 問い2 やめてよいものは何か
優先してやめるべきものを、具体的に挙げます。
紙の回覧板です。これは前回提案したとおりです。松戸市も電子回覧板「自治会サポ!」の導入を支援しており、市公式LINEから登録できる仕組みを用意しています。
民間のアプリでも、市の仕組みでも構いません。大切なのは、各家庭を手渡しで回るという作業をやめることです。
形式的な会議です。年数回の総会と役員会があれば足ります。「
集まること」が目的化した会議は、現役世代が最も離れる要因です。
動員型の行事です。参加者より役員の方が多いイベントは、やめるか、他団体と統合すべきです。
市民運動会や音楽祭も、地区単位で合同開催にすれば負担は分散します。
各種団体への委員の選出です。町会を通じて選ばれる委員や協力員が、年間いくつあるか数えたことはあるでしょうか。
この積み重ねが、役員の負担の正体であることは少なくありません。
募金の取りまとめも、再考の余地があります。善意の活動であることは理解していますが、集金と記録の負担は大きく、キャッシュレスでの個人寄付が広がった今、取りまとめの必要性は下がっています。
■ 問い3 役員を一部に集中させない仕組み
ここが最も重要だと考えます。鍵は、役職を「人」ではなく「作業」で分けることです。
いまの町会は、会長・副会長・会計・班長といった役職に、年間を通じたすべての仕事がぶら下がっています。
だから「1年間拘束される」という恐怖が生まれ、なり手がいなくなります。
これを、作業単位に分解します。
たとえば「防災訓練の受付を当日3時間」「盆踊りの準備を土曜の午前中だけ」「集会所の鍵の管理を月に1回」。こうして切り出せば、働いている人でも手を挙げられます。
そのうえで、年間の仕事を一覧にして、所要時間を書き添える。「会計は年間およそ20時間」「広報は年間10時間」と見えれば、引き受ける判断ができます。見えないから、誰も手を挙げないのです。
ここでデジタルが効いてきます。前回の記事で書いた運営の可視化とは、本来この使い方をするためのものです。誰が何をやっているかがアプリ上で見えれば、特定の人への集中は数字として明らかになります。
そして過去のノウハウが残れば、引き継ぎのたびに一から説明する必要もなくなります。
もうひとつ、任期の明示です。「2年で交代、再任は本人が希望する場合のみ」と規約に書く。善意で続けてくださる方に甘えてきた結果が、いまの属人化です。
■ 問い4 現役世代が参加できる形にするには
前回の記事で、松戸は都心に近く子育て支援も充実しているため転入世帯が多い一方、昔から地域を支えてきた方々との間に断絶が生じやすいと書きました。この課題に、具体的な答えを出したいと思います。
条件は3つあります。
時間です。平日の日中に集まる限り、現役世代は参加できません。
会議は平日の夜か週末に、しかもオンライン併用で。市のデジタル化補助を使えば、必要な機器は揃えられます。
単発であることです。通年の役職ではなく、イベント単位の参加から入れるようにする。一度参加した人が、翌年も来てくれる可能性は高い。入口を低くすることが先です。
意味が分かることです。現役世代は、意味の見えない活動には時間を使いません。「防災訓練は、災害時に誰がどこにいるかを把握するための訓練です」と目的を言語化するだけで、参加率は変わります。
転入してきた世帯にとって、地域活動の最大のハードルは「何をやっているか分からない」ことです。
アプリで情報が届き、単発で参加でき、目的が説明されている。この3つが揃えば、新旧住民が交わる入口になります。
■ ワーカーズコープという発案について
ご提案のあった、地域の課題解決を仕事として担う仕組みについて、可能性と課題の両方を率直に書きます。
2022年10月に労働者協同組合法が施行され、3人以上が集まれば、行政の認可を受けずに法人を設立できるようになりました。
組合員が出資し、意見を出し合い、自ら事業に従事する。地域の課題解決を事業にする組織として設計された制度です。
町会の仕事のうち、次のようなものは「仕事」として成立しうると考えます。
集会所や集積所の清掃と管理。高齢者の見守りと安否確認。買い物や通院の支援。子どもの居場所の運営。草刈りや簡易な修繕。
これらは、介護保険の総合事業や生活支援体制整備事業の枠組みと接続できる可能性があります。
ただし、現実的な課題もあります。
第一に、財源です。
町会費では賄えません。市からの委託や補助、利用者負担を組み合わせない限り、事業は回りません。ここを曖昧にしたまま法人をつくれば、善意の持ち出しが続くだけです。
第二に、事務負担です。
法人の設立、会計、労働契約、社会保険。町会役員の負担を減らすはずが、別の負担を生む可能性があります。
第三に、町会との関係です。
町会がそのまま事業主体になることは適切ではありません。別法人として設立し、町会は「依頼する側」に回る。この切り分けが必要です。
したがって、現実的な順序はこうなると考えます。
まず有償ボランティアから始めること。謝礼を払う形で、特定の作業を引き受けてもらう。松戸市の市民活動総合補償制度を使えば、保険の問題はある程度カバーできます。
次に、仕事として成立する規模が見えてきた段階で、法人化を検討する。いきなり法人ありきで進めない方が、失敗の確率は下がります。
行政書士として法人設立の相談を受ける立場から言えば、器を先に作って中身を後から考えた組織は、たいてい続きません。順序が逆です。
■ 市に求めたい5つのこと
ここからは、市政への提言です。
第一に、市から町会への依頼事項の棚卸しです。ポスターの掲示、チラシの配布、委員の推薦、調査への協力、行事への動員。
これらが年間どれだけあるか、市は把握しているでしょうか。まず数えて公表し、半減させる目標を立てるべきです。役員の負担を減らす最短の方法は、依頼を減らすことです。
第二に、交付金の性格を見直すことです。防犯灯の維持や集積所の管理は、実質的に公共サービスです。
これを「地域の自主的な活動への支援」として薄く配るのではなく、担っている機能に対する対価として支払う仕組みに組み替える。そうすれば、人を雇うことも、外部に委託することもできます。
第三に、小規模化した町会の連携・合併の支援です。100世帯に満たない町会が単独で全機能を維持するのは、もはや困難です。
隣接する町会との統合や、特定の機能だけを連合会単位で担う仕組みを、市が仲介すべきです。
第四に、デジタル化の伴走支援です。自治会サポやデジタル化補助という制度はあります。
しかし70代の会長に「導入してください」と言っても進みません。前回の記事でアプリの有効性を書きましたが、本当に必要なのは、導入作業そのものを代行する人手です。制度があることと、使われることは別の話です。
第五に、地域担当職員の配置です。町会からの相談を、どの課に持ち込めばよいか分からない。
この状態が負担を増やしています。地区ごとに窓口となる職員を置くだけで、やり取りは大きく減ります。
■ 「加入率を上げる」を目標にしない
最後に、考え方の転換を提案します。
市は加入促進のPRアニメや漫画を作り、加入率の向上に取り組んでいます。その努力は理解しますが、63.68%という数字を追い続けることが本当に目的でしょうか。
加入率が下がっても、災害時に助け合える関係が残っていればいい。会員でなくても、集積所を使う人が清掃に参加すればいい。大切なのは組織の規模ではなく、機能が維持されることです。
目標は「加入率70%」ではなく、「全世帯の安否確認が48時間以内にできること」「集積所の管理者が全箇所で決まっていること」といった、機能を測る指標であるべきだと考えます。
■ 縮めることは、後退ではない
町会・自治会は、報酬もないまま公共的な仕事を担い続けてきた、きわめて例外的な組織です。それが続いてきたこと自体が、ある意味では奇跡でした。
その奇跡が終わりかけているのなら、必要なのは「もっと頑張る」ことではなく、「何を手放し、何を残すか」を決めることだと思います。
前回、私はアナログの温かさとデジタルの便利さを融合させるべきだと書きました。その考えは変わりません。ただ、融合の前にやるべきことがあります。
抱えすぎた荷物を下ろすことです。
役員の仕事を減らし、現役世代が単発で関われる入口をつくり、公共サービスに近い部分は対価を伴う仕事に変えていく。組織としては縮んでも、いざというときに声をかけ合える関係が残れば、それが地域の力です。
ご相談をいただいた方が書かれていた「ゆるやかなつながり」という言葉に、答えが含まれていると感じました。
守るべきはつながりであって、組織の形ではありません。
一児の父であり、現役世代である私自身、平日の日中に地域活動へ参加することの難しさは身をもって感じています。
だからこそ、誰もが無理なく関われる形を、実務の視点から提案し続けてまいります。
松戸市の町会・自治会に関する問い合わせ先は、市民部 市民自治課(電話047-366-7072)です。