照井りょう(てるいりょう)千葉県松戸市

【松戸は50年以上前から、「見る・聞く・話す新しい図書館」を掲げていました】このままでいいのか、市の図書館|金町駅前で見た「居場所の設計」

先日、子どもを連れて葛飾区の金町駅前へ行きました。

目的は図書館でした。けれども、本当に衝撃を受けたのは、図書館そのものよりも、駅前に広がる仕掛け全体の方です。

靴を脱いで上がる親子専用のスペースがあり、床に座って絵本を読み聞かせられる。周りも同じ親子連れなので、子どもが声を出しても気を遣わなくていい。
本やCDの数も豊富で、建物の1階はスーパーです。買い物のついでに寄れる。

そして、そこから歩いてすぐの別のビルに「カナマチぷらっと」という施設があります。ここがまた凄かった。

今回は、この2つの施設と松戸市立図書館を比べながら、松戸の図書館がこれからどうあるべきかを考えます。

■ まず数字から:本館は築52年、広さは4割弱

感想だけでは議論になりませんので、数字を並べます。

葛飾区の中央図書館は2009年10月開館。延床面積は約5,077平方メートル、蔵書は約41万冊、読書席は約450席。
ワンフロア構成で、平日と土曜は夜10時まで開いています。休館日は月に1回程度で、年末年始もほぼ開館。JR金町駅から徒歩1、2分です。

一方、松戸市立図書館の本館が開館したのは1974年2月。築52年になります。延床面積は約1,932平方メートル。葛飾区の中央図書館の、およそ4割弱の広さです。

しかも本館には書庫がありません。旧古ケ崎南小学校に書庫を設けていますが、収容能力は約53万冊で、増え続ける資料には足りない状況が続いています。

市内に19ある分館も、その多くは市民センターなどに併設されたもので、100平方メートル未満の館が9館あります。

ちなみに、平日の夜10時まで開いている図書館は、松戸市内にはありません。

■ この状況は、36年前から指摘されています

誤解のないように書いておくと、市が認識していないわけではありません。

2015年の図書館整備計画には、本館について築40年以上が経過して老朽化が進み、狭さが目立つこと、分館も同時期の施設に併設されているため大幅な改善が必要であることが明記されています。
2019年には現状分析もまとめられました。

新しい中央図書館の構想は、平成元年からの総合計画に登場しています。実施計画にも載りました。
しかし用地取得の断念や市役所建て替えの優先などで、繰り返し先送りされてきました。

36年にわたって「必要だ」と言われ続け、実現していない。これが松戸の図書館の現実です。

■ 金町の図書館が優れているのは「動線」

ここからが本題です。

金町の図書館の本質的な強みは、蔵書数でも新しさでもありません。利用者の動線を徹底的に考えた設計にあります。

買い物のついでに立ち寄れる。だから特別な予定を立てなくても行ける。エレベーターでもエスカレーターでも上がれるので、ベビーカーでも車いすでも困らない。

ワンフロアだから移動で疲れない。カウンターから死角の少ない空間構成になっているため、職員の目が届きやすく、子どもから目を離しても不安が少ない。

児童エリアの床はコルク張りで、靴を脱いで座れる。おはなしのへやがあり、子ども用のトイレもあり、屋外で読書ができる子どもデッキもある。

中高生にはティーンズルームがあり、進路に関する本や若い世代向けの雑誌が置かれている。社会人には夜10時までの開館時間とデータベースがある。

誰が、いつ、どうやって来るのか。それぞれの利用者に居場所が用意されている。これが設計思想の差です。

■ そして「カナマチぷらっと」が、図書館の役割を補っている

さらに驚いたのが、同じ金町駅前にある「カナマチぷらっと」です。正式名称を葛飾区金町駅前活動センターといい、ベルトーレ金町というビルの3階にあります。開館は朝9時から夜9時まで。

この施設の中身を見ると、図書館に求められがちな機能が、きれいに分担されていることが分かります。

予約不要・無料で使えるものだけでも、これだけあります。

ロビー。交流や歓談に自由に使えます。

キッズスペースとベビースペース。玩具のある広いスペースで親子がゆっくり過ごせ、授乳室と調乳用のお湯まであります。

ライブラリースペース。親子で楽しめる本が置かれていますが、貸出はせず館内で読む形です。図書館と役割を分けているわけです。

ティーンズスペース。読書や歓談に自由に使え、年齢を問わず利用できます。

ギャラリー。季節に応じた装飾が施されています。

予約すれば使えるものも充実しています。

パーソナルスペースは、景色を楽しめる開放的なワークスペースで、1人1日2時間まで無料。電源も使えます。

ワーク&スタディと呼ばれるテレワークブースは10室あり、有料ですがWi-Fiと電源が完備されています。

さらに料理実習室、創作室、視聴覚室、集会室、音楽練習室。創作室には電動糸のこぎりや電動ドリル、家庭用ミシンがあり、音楽練習室にはドラムと電子ピアノと音響機材が揃っています。

講座やイベントも毎日のように開かれています。無料イベントは予約不要で誰でも参加でき、有料講座も1回500円。実験くらぶ、工作くらぶ、絵手紙くらぶ、ハンドメイドくらぶ。親子ビクス、ヨーガ、英会話、離乳食講座。シルバーウィークにはプラレール広場が登場していました。

施設の愛称には、多様な人が集いつながる「プラットフォーム」としての機能と、交通結節点である駅前に多世代が気軽に「ぷらっと」立ち寄ってほしいという想いが込められているそうです。

■ 金町の本当の強みは、役割分担にある

ここで気づいたことがあります。

金町が優れているのは、ひとつの施設が何でも抱え込んでいるからではありません。駅前の徒歩数分の範囲に、機能の異なる場所が配置され、役割を分担しているからです。

図書館は、蔵書と静かな環境と調べものを担う。カナマチぷらっとは、交流と体験と活動の場を担う。
親子で絵本を読むなら図書館の児童エリア、思い切り遊ばせたいならぷらっとのキッズスペース。集中して勉強するなら図書館、仲間と作業するならぷらっとの集会室。

利用者から見れば、「今日はどういう気分か」で選べる。これが、駅前に居場所があるということの意味です。

■ 松戸にも、成功例はあります

ここで強調したいことがあります。松戸にできないわけではありません。すでに成功例を持っています。

2021年12月に開館した東松戸の複合施設「ひがまつテラス」です。

1階に図書館の地域館、2階に支所と青少年プラザを配置し、図書館には中高生向けの資料を揃えたヤングアダルトコーナーを設置。2階の青少年プラザと内階段でつなぐことで、中高生が1階で借りた本を2階のコミュニティスペースで読めるようにしています。東松戸駅から徒歩4分です。

整備の方法も工夫されています。民間事業者が施設を整備し、公共施設部分を市が買い取る。民間施設部分の土地代金をその購入費に充てる、官民連携の手法です。

駅前立地、複合化、世代別の居場所づくり、官民連携。金町が持つ要素のほとんどを、松戸はすでに一度実現しているのです。

問題は、それが本館に展開されていないことです。

■ 提言1 単独の箱として建てない

新しい中央図書館を、図書館だけの建物として建てることは、おそらくもう不可能です。

松戸市は新焼却施設に総額1,034億円、新庁舎に656億円という大型事業を抱えています。図書館のためだけに数十億円を単独で確保する議論は、現実的ではありません。

だからこそ、複合化と官民連携です。商業施設や住宅と一体の建物に入る。民間が整備し、市が公共部分を取得する。ひがまつテラスで実証済みの手法を、規模を大きくして使う。

そして今、松戸にはその機会があります。市役所の建て替えが現在地に決まったことで、駅東側の新拠点ゾーンの計画は見直されることになりました。あの土地に何を置くのかは、まだ決まっていません。

図書館が候補に挙がらない理由は、どこにもないと考えます。

■ 提言2 親子が気兼ねしない空間を最優先で

子ども連れが図書館から足を遠のかせる最大の理由は、「静かにさせなければ」という緊張です。

靴を脱いで座れる床。親子専用のゾーン。子ども用のトイレ。読み聞かせができる部屋。授乳室と調乳用のお湯。これらは贅沢品ではなく、親子を排除しないための最低条件です。

そして一般利用者と空間を分けることは、双方のためになります。静かに読みたい人も、子どもの声に気を遣わずに済むからです。

■ 提言3 中高生と現役世代の居場所を正面から位置づける

中高生が勉強できる場所は、松戸にどれだけあるでしょうか。

ファストフード店で粘るか、有料の自習室を借りるか。家に居場所がない子にとって、公共施設は最後の受け皿です。

金町では、図書館にティーンズルームがあり、カナマチぷらっとにもティーンズスペースがある。どちらも予約不要・無料です。

そして見落としてはいけないのが、働く世代です。無料で予約できるワークスペース、電源とWi-Fiのあるテレワークブース。これらは「図書館の自習室」という発想では出てきません。働き方が変わった以上、公共施設も変わるべきです。

■ 提言4 「ついで」に行ける場所に置く

図書館に行くことを目的化させてはいけません。

買い物のついで。保育園の送迎の帰り。仕事帰り。この動線の上に置くことが、利用者数を決めます。

金町の図書館が1階にスーパーのある建物に入っていることは、偶然ではなく設計です。

そして夜間開館です。平日に働いている人にとって、19時に閉まる図書館は存在しないのと同じです。夜9時、10時まで開ける館が市内に一つあるだけで、使える市民の数は大きく変わります。

■ 提言5 「借りる場所」から「できる場所」へ

カナマチぷらっとで最も印象的だったのは、創作室と音楽練習室でした。

電動糸のこぎり、電動ドリル、ミシン。ドラム、電子ピアノ、音響機材。これらを公共施設が用意し、住民が使える状態にしている。

本を借りるだけでなく、何かを作れる。演奏できる。料理できる。学んだことを実践できる場所が、同じ建物の中にある。

子どもにとって、これほどワクワクする場所があるでしょうか。

図書館の機能を「貸出」に限定する発想を、そろそろ手放すべきだと考えます。松戸市の2015年の計画でも、知の拠点、学びを支える拠点、地域コミュニティを支える情報拠点、交流から生まれる文化の創造拠点という役割が掲げられています。言葉はすでにある。実現されていないだけです。

■ 提言6 分館の役割を整理する

19の分館すべてを、同じ機能で維持する必要はありません。

100平方メートル未満の小さな分館に蔵書の充実を求めるのは無理があります。むしろ予約した本の受け取りと返却に特化し、空いたスペースを地域の居場所に転換する方が、使われる施設になります。

中央館で揃え、分館で受け取る。この役割分担を明確にすれば、限られた予算でサービスの質を上げられます。

■ 52年前の松戸には、気概がありました

最後に、ひとつ紹介したい事実があります。

松戸市立図書館の本館が開館した1974年、当時の松戸市は「見る・聞く・話す新しい図書館」を掲げていました。
会話ができる貸出室、調べものをする参考調査室、郷土資料コーナー、小グループが気軽に話し合える会議室。
屋上も読書や交流のスペースとして使う。当時としては全く新しい発想で、県下一の広さを誇る施設でした。

つまり松戸は、50年以上前に「図書館は静かに本を借りるだけの場所ではない」と宣言していたのです。

いま金町で実現していることの多くは、かつて松戸が目指したものと重なるのではないでしょうか。

必要なのは、新しい発想ではないのかもしれません。52年前の気概を取り戻すことだと考えます。

子どもが初めて絵本に出会う場所。中学生が将来を考え始める場所。仕事帰りの大人がひとりになれる場所。高齢の方が誰かと顔を合わせる場所。

そういう場所を、松戸の駅前につくりたい。36年先送りされてきた議論に、そろそろ答えを出すべきだと考えます。

松戸市立図書館に関する問い合わせ先は、教育委員会 生涯学習部 図書館(電話047-365-5115)です。

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