松戸市立総合医療センターに何が起きているのか|40億円の支援と、守るべきもの
2026年10月3日
こんにちは。闘う行政書士の照井りょうです!
松戸市が抱える課題のうち、金額の大きさに比べて最も知られていないものがあります。
市立総合医療センターの経営です。
令和6年度の経常収支は41億2,000万円の赤字。前年度から8億3,000万円悪化しました。
当期純損失は令和5年度の32億6,000万円から令和6年度は68億7,000万円へと拡大し、累積欠損金は203億2,000万円に達しています。
そして令和8年度から、市は毎年40億円規模の支援を病院に投じることになりました。
この記事では、何が起きているのか、何が決まったのか、そして市民として何を見ておくべきかを整理します。

■ まず、何が起きたのか
総合医療センターは、平成29年12月に老朽化した旧市立病院を新築移転して開設された、東葛北部保健医療圏の中核病院です。
救命救急センター、周産期医療、小児医療など、民間では採算を取りにくい分野を担っています。
赤字の構造は、外部の専門機関がまとめた報告書で明確に指摘されています。
厳しい競争環境のなかで病床の稼働が伸び悩み、収益力が十分に上がっていない。
その結果、収益に対して人件費が過剰な負荷になり、赤字が拡大している。
人件費比率は令和6年度で68.7%。給与費が医業収益の7割近くを占める水準です。
加えて、東松戸病院の閉鎖に伴う特別損失、物価高騰による材料費の増加、人事院勧告に伴う職員給与の増額が重なりました。
市は令和7年8月、このまま推移すれば令和8年度以降に運営資金が枯渇する恐れがあるとして、経営再建方針を公表しました。
本業での収支が改善できなかった場合、一般会計からの繰入金が50億円以上に急増する可能性が高いという、厳しい見通しも示されています。
■ 令和8年2月、再建策が決まりました
市の病院事業経営改革委員会に示された第4次経営計画の内容は、次のとおりです。
病床は、現在稼働している568床を519床へ段階的に削減します。許可病床は600床でしたので、81床の減少です。一般病棟46床、小児病棟10床、ICU救命8床などが対象で、ICUは16床から半減します。
一方で、病床稼働率は86.1%から92.5%へ引き上げます。手術室の稼働も高め、年間の手術料収益を28億円から30億円に増やす計画です。
職員数は、令和7年度の1,147人から令和11年度の1,079人まで減らします。早期退職の募集や、退職者の不補充によって対応します。
さらに独自の給与表を設定し、年間の人件費を5億円削減します。
これらにより、医業の赤字を令和7年度の44億円から令和11年度には17億円まで圧縮する計画です。
一般会計からの繰入金は、令和8年度から10年度まで毎年40億円規模。令和11年度には30億円に縮小します。
最重要目標として掲げられたのは、病院運営に必要な現金残高20億円以上を維持することです。
■ 守られたものもあります
この計画で、重要な判断が3つなされています。
診療科を減らさないこと。
病床と人員は縮小しますが、診療科の廃止は行いません。
民間譲渡を行わないこと。
経営形態について、市の直営、地方独立行政法人化、指定管理者制度の導入が検討されましたが、公立病院として直営を維持する方針が選ばれました。
採算の取りにくい政策医療を続けること。
救急、周産期、小児。民間病院が引き受けにくい分野を、市が担い続けるという判断です。
赤字の削減だけを目的にするなら、不採算部門の撤退が最も効果的です。それを選ばなかったことは、市民の医療を守る判断として評価できると考えます。
■ ただし、40億円の重さは直視すべきです
一方で、数字の重さも正確に見る必要があります。
年間40億円という支援額は、松戸市の一般会計1,945億円の約2%にあたります。市民およそ50万人で割れば、1人あたり年間8,000円です。4人家族なら年間3万2,000円を、この病院の運営に充てている計算になります。
しかも松戸市の財政は、財政調整基金が減少傾向にあり、改革の途上にあります。新焼却施設に1,040億円規模、新庁舎に656億円という大型事業も抱えています。
この支援が計画どおり令和11年度に30億円へ縮小するのか。それとも想定どおりにいかず膨らむのか。市の財政全体に直結する問題です。
■ これから注視すべき4つのこと
ここからが提言です。再建策が決まった以上、問うべきは「賛成か反対か」ではなく、「何を見ながら進めるか」だと考えます。
第一に、人材の流出です。
給与体系の見直しによって年間5億円の人件費を削減する計画ですが、医師や看護師は全国で奪い合いになっている職種です。待遇が下がれば、人が辞める可能性があります。
人が減れば病床を動かせず、収益はさらに落ちる。この悪循環は、全国の公立病院で現実に起きてきました。
だからこそ、離職率、看護師の充足率、医師の確保状況を定期的に公表し、異常があれば計画を修正する仕組みが必要です。コスト削減の数字だけを追う管理は危険です。
第二に、医療の質です。
病床を減らし、稼働率を92.5%まで上げるということは、常にほぼ満床で回すということです。急な患者の受け入れ余地は、確実に狭まります。
救急の応需率、断らざるを得なかった件数、紹介患者の受け入れ状況。
これらを赤字縮小の数字とセットで公表すべきです。経営指標だけが改善し、市民が救急車で受け入れ先を探す時間が延びるようでは、本末転倒です。
第三に、中間見直しの基準です。
計画では令和9年度に中間見直しを行い、計画が妥当かどうか判断することになっています。
ここで重要なのは、判断基準を先に決めておくことです。何が、どの水準を下回ったら、どういう選択肢を検討するのか。
基準を曖昧にしたまま見直しの時期を迎えると、「もう少し様子を見よう」という結論になりがちです。
第四に、市民への説明です。
これだけの規模の話が、市民にほとんど知られていません。年間40億円、市民1人あたり8,000円。この事実を、分かりやすく伝える責任が市にはあります。
数字を隠すことは、病院を守ることになりません。むしろ「なぜこれだけの支援が必要なのか」を説明できてこそ、市民の理解が得られます。
■ 市民が参加できる場があります
ひとつ、お知らせがあります。
市の病院事業には、経営計画の達成状況を点検・評価する「松戸市病院事業経営改革委員会」が設置されています。学識経験者や地域の代表者で構成される会議です。
この委員会は、市民が傍聴できます。令和8年10月7日にも、第3次経営計画の評価と第4次経営計画の進捗報告のために開催されます。
病院の経営がどう語られているのか、関心のある方は足を運んでみる価値があると思います。
■ 「赤字の病院」ではなく「何を守る病院か」
最後に、この問題に対する私の立場を書いておきます。
公立病院の赤字は、必ずしも経営の失敗を意味しません。民間が担えない医療を引き受ければ、収支は悪化します。それは制度上、当然のことです。
ですから「赤字だから民営化すべきだ」という議論にも、「公立病院だから赤字は仕方ない」という議論にも、私は与しません。
問うべきは、市がこの病院に何を担わせるのかという役割の定義です。救急はどこまで受けるのか。周産期と小児をどう維持するのか。高度医療のどこを担い、どこを近隣の病院と分担するのか。
その役割が明確になって初めて、必要な繰入金の額が決まります。
逆に役割が曖昧なまま金額だけを議論すれば、際限なく増えるか、必要な医療が削られるかのどちらかになります。
40億円は、小さな額ではありません。だからこそ、その使い道と成果を、市民が見える形にしていく必要があると考えます。