外国人が日本で亡くなり、引き取る人がいなかったら|誰が費用を払い、遺骨はどこへ行くのか
2026年10月4日
こんにちは。闘う行政書士の照井りょうです。
在留資格の手続きを専門にしていると、人の人生の節目に立ち会うことになります。
来日、就職、結婚、出産、永住。そして時には、その終わりにも。
日本で暮らす外国人が亡くなったとき、家族が日本にいなければ何が起きるのか。費用は誰が負担するのか。遺骨はどこへ行くのか。
調べてみると、この問いに明確に答えられる資料は、ほとんどありませんでした。
制度はあるのに、外国人を想定した設計になっていないのです。
今回は、公的な資料をもとに、この見えにくい問題を整理します。

■ まず前提:日本人も、年間4万2千人が「引き取り手なし」
外国人の話に入る前に、全体像を押さえておきます。
厚生労働省の委託により実施された調査では、令和5年度に引き取り手のないご遺体は、推定で約42,000人とされています。同じ年の死亡数1,576,016人のうち、2.7%にあたります。
内訳は、墓地埋葬法第9条に基づく火葬が8,694人、行旅病人及行旅死亡人取扱法に基づく火葬が1,209人、生活保護法の葬祭扶助によるものが32,066人です。
つまり、亡くなった方のおよそ37人に1人は、誰にも引き取られていません。
これは外国人に限った話ではなく、日本社会全体の構造的な変化です。
■ 法律の仕組み:最後は市区町村が火葬する
日本の法律は、この事態に備えています。
墓地埋葬法第9条は、死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長がこれを行わなければならない、と定めています。身元が分からない場合は、行旅死亡人として同様に扱われます。
重要なのは、この規定に国籍の要件がないことです。外国人であっても、日本で亡くなり引き取る人がいなければ、死亡地の市区町村が火葬する義務を負います。
費用の負担には明確な順序があります。
まず、亡くなった方の遺留金品を充てます。足りなければ相続人の負担、相続人から弁償を得られなければ扶養義務者の負担。それでも賄えない場合、市区町村が一時的に立て替え、政令市と中核市を除く市町村は都道府県に不足分の負担を求めることができます。
つまり、税金が投入されるのは最後の手段です。
ただし現実には、1件あたりの葬儀費用がおよそ20万円程度であること、都道府県への請求手続きが煩雑であることから、請求を諦めて市の負担としている自治体も少なくないと報告されています。
■ ここからが本題:外国人の場合、何が違うのか
法律の適用は同じでも、実務は大きく異なります。調査報告書には、自治体の担当者の生の声が記録されています。
一般市の担当者はこう述べています。外国人の対応は今後あると思っており、難しいと感じる。戸籍といっても、出生証明書を母国に確認し、追うのも難しいだろう、と。
特別区の担当者はさらに具体的です。外国籍で外国に親族がいる方について、戸籍請求ができないので、仮に親族がいても、親族だという証明がないと、引き渡しをすることが難しいと感じている、と。
公衆衛生の専門家も、外国人をめぐる課題は今まで想定されていなかったが、今後確実に増えるだろう、と指摘しています。
葬儀事業者からは、観光客など外国人への対応がこれから課題になるのではないか、という声も上がっています。
問題の核心は、日本の制度が戸籍を前提に組み立てられていることです。
日本人であれば、戸籍をたどれば親族が分かります。自治体は職権で戸籍を取得でき、相続人の範囲を特定できます。
しかし外国人には戸籍がありません。出生証明書を母国に照会し、翻訳し、親族関係を証明する。これを自治体の一担当者が行うのは、現実的に不可能です。
結果として、親族がいるかもしれないのに探せない、あるいは見つかっても親族だと証明できないため遺骨を渡せない、という事態が起こります。
■ 手続きの流れ
外国人が日本で亡くなった場合、本来必要な手続きは次のとおりです。
死亡届の提出。これは日本人と同じく、戸籍法に基づいて行われます。同居の親族、その他の同居者、家主や家屋の管理人などが届出義務者です。
病院で亡くなれば病院長、施設であれば施設長が届け出ることもあります。誰もいない場合、自治体が職権で対応する手続きもあります。
在留カードの返納。死亡した日から14日以内に、親族または同居者が出入国在留管理庁長官に返納しなければなりません。これを知らないまま放置されるケースは、実務上かなりあると感じています。
母国への通知。死亡届を受理した市区町村長は法務局へ通知し、法務局長が外務省領事局へ、そして各国との協定に基づいて相手国の領事に死亡が通知される仕組みになっています。
遺体をどうするか。母国へ搬送するか、日本で火葬するか。遺族が選択します。
■ 母国へ帰すには、100万円以上かかる
ここが最も重い現実です。
遺体を母国へ空輸する場合、費用は全体で100万円から150万円ほどかかるとされています。
内訳は、空輸代が15万円から50万円、棺代や空港までの搬送、手続きの代行費用などで50万円から70万円、遺体の防腐処置であるエンバーミングに15万円から25万円程度です。
これを誰が負担するのか。制度上の答えは「遺族」です。日本の公費で母国へ搬送する仕組みはありません。
技能実習生や特定技能の方であれば、受入企業や監理団体が対応することが期待されます。
民間の保険に加入していれば、搬送費用がカバーされる場合もあります。
しかし、留学生や自営業の方、あるいは在留資格を失って生活が不安定になっていた方の場合、負担できる人が誰もいないという状況は十分に起こり得ます。
その場合、日本で火葬されることになります。遺骨を国際郵便で母国へ送ることは可能ですが、それを手配する人がいなければ、遺骨は自治体の手元に残ります。
■ そして、宗教の問題があります
もうひとつ、日本の制度が想定していない論点があります。
イスラム教では、土葬が宗教上の要請とされています。しかし日本の墓地のほとんどは火葬を前提としており、土葬を受け入れる墓地は全国でもごくわずかです。
引き取り手のない外国人が亡くなった場合、自治体は墓地埋葬法に基づいて火葬します。本人の信仰を確認する手続きは、制度上どこにも用意されていません。
本人の宗教を知らないまま火葬することが、信仰上は取り返しのつかない結果をもたらす可能性がある。この論点は、まだほとんど議論されていません。
■ 遺骨はどこへ行くのか
火葬された後、遺骨は自治体が保管します。
全国の調査では、自治体が預かる遺骨の保管期間は5年とする自治体が最も多く、次いで3年、1年という結果でした。
この期間を過ぎると、多くの自治体では合祀されます。一度合祀されると、個別に取り出すことはできません。
保管場所は、市営墓地や納骨堂、寺院、自治体の庁舎内など様々です。件数の増加に伴い、保管場所が足りなくなっている自治体もあり、合祀までの期間を10年から5年、さらに3年へと短縮した例も報告されています。
外国人の場合、母国の家族が数年後に存在を知って連絡してきたとしても、すでに合祀されている可能性があります。
そして、親族であることを証明する書類を揃えられなければ、そもそも引き渡しができません。
■ 松戸市では、何件起きているのか
ここで本来、松戸市の数字をお示ししたいところです。
しかし、松戸市が墓地埋葬法第9条に基づいて火葬した件数、行旅死亡人としての取扱い件数、自治体が保管している遺骨の数。これらは公表されていません。
そのうち外国籍の方が何人いるかは、なおさら分かりません。
参考までに、全国の調査では、人口30万人以上の自治体における墓地埋葬法第9条に基づく火葬は平均46.9件でした。
首都圏は火葬までの期間が長く、自治体が預かる遺骨の数も多い傾向にあります。
松戸市の外国人住民は約2万7千人で市民の5.4%。この規模の都市で、該当する事例がゼロということは考えにくいと思います。
数字がないことは、問題がないことを意味しません。把握されていないだけです。
■ 提言1 まず、松戸市の実態を明らかにする
議会質問か情報公開請求で、次のデータを明らかにすべきです。
墓地埋葬法第9条および行旅死亡人法に基づく火葬の件数。そのうち外国籍の方の件数。自治体が保管している遺骨の数と保管期間。合祀までの運用基準。親族調査の範囲に関する内規の有無。
全国調査では、4割の自治体がマニュアルを持っていないと回答しています。松戸市に基準があるのかどうかも、確認が必要です。
■ 提言2 外国籍の場合の親族調査に、到達点を設ける
戸籍をたどれない以上、日本人と同じ調査は不可能です。
ならば、どこまでやれば調査を尽くしたと言えるのかを定めるべきです。領事機関への照会、本人が所属していた企業や学校への確認、在留申請時の書類に記載された身元保証人への連絡。
この範囲を内規で明示すれば、担当者は判断に迷わず、後からの批判にも説明できます。
基準がないことが、担当者を最も苦しめています。
■ 提言3 領事機関との連絡ルートを事前に整理する
死亡届から外務省を経由して領事に通知が行く仕組みはありますが、時間がかかります。
火葬や遺骨の取扱いを判断する段階で、領事機関と直接連絡が取れるルートを県と協議して整理しておくべきです。
国によっては、領事館が親族の所在確認に協力してくれる場合があります。
■ 提言4 受け入れる側の責任を明確にする
技能実習生や特定技能の方を受け入れる企業、留学生を受け入れる学校。これらの機関には、本人が亡くなった場合の対応について一定の準備を求めるべきです。
母国の家族の連絡先の把握。緊急時の連絡体制。搬送費用に備えた民間保険への加入の推奨。
入管業務に関わる立場から言えば、これらは受入時に整えておけば済む話です。何も決めずに事態が起きてから慌てるから、誰も対応できなくなります。
■ 提言5 宗教的配慮の確認手順をつくる
火葬の前に、本人の信仰について確認できる情報があるかを確認する。この一手順を入れるだけで、取り返しのつかない事態を避けられる可能性があります。
土葬を受け入れる墓地が近隣にない以上、完全な対応は困難です。それでも、確認したうえで火葬するのと、知らずに火葬するのとでは、意味がまったく違います。
■ 提言6 国に制度の整備を求める
自治体だけでは解決できない部分があります。
外国籍の方の親族調査について、国レベルでの統一的な指針。
領事機関を通じた身元確認の制度化。
遺骨の母国送還に関する手続きの明確化。
厚生労働省の調査報告書も、引き取り手のないご遺体をどのように取り扱うのが適切なのかという社会的な合意がないことを課題として挙げています。
外国人の事例については、その議論すら始まっていません。
■ 誰の問題でもないことにしない
この記事は、外国人の受け入れを増やすべきだという主張でも、減らすべきだという主張でもありません。
いま日本で2万7千人の外国人が松戸市に暮らし、全国では400万人近くが暮らしています。
その中には、必ず亡くなる人がいます。家族が日本にいない人も、連絡が取れない人もいます。
そのときに、誰が何をするのか。費用は誰が負担するのか。遺骨はどこへ行くのか。
決めていないということは、現場の担当者に判断を押し付けているということです。
そして、亡くなった方の尊厳が、手続きの隙間で失われているということでもあります。
人の死に、国籍は関係ありません。制度の不備で誰かが放置されることのないよう、まずは実態を明らかにするところから始めるべきだと考えます。
松戸市の墓地埋葬に関する問い合わせ先は、環境部 環境政策課です。生活保護に関する事項は、福祉長寿部 生活支援一課・二課が所管しています。