犬や猫が行き場を失う本当の理由は、飼い主の老いでした|松戸市に殺処分を行う権限はありません
2026年10月5日
こんにちは。闘う行政書士の照井りょうです。
動物の問題を語るとき、多くの人が「殺処分ゼロ」という言葉を使います。
誰も反対できない目標です。私も、不要に失われる命はない方がいいと思います。
ただ、松戸市の市政としてこのテーマを考えるなら、知っておくべき事実が2つあります。
ひとつは、松戸市には殺処分の権限がないこと。
もうひとつは、千葉県の統計を見ると、いわゆる「引き取り手がないから殺す」という処分は、すでにゼロだということです。
では、何が課題なのか。今回は、数字をたどりながら整理します。結論を先に言えば、動物の問題は、人の暮らしの問題でした。

■ 事実1 松戸市に、犬猫を引き取る権限はありません
意外に知られていませんが、犬や猫の引取り、収容、処分は、動物の愛護及び管理に関する法律に基づき、都道府県、政令指定都市、中核市が行うこととされています。
松戸市はいずれにも該当しないため、この権限を持っていません。
松戸市を管轄するのは、千葉県動物愛護センターの東葛飾支所です。
習志野市、八千代市、鎌ケ谷市、市川市、浦安市、松戸市、流山市、我孫子市、野田市を所管しています。
つまり、市議会で「殺処分をゼロにします」と言っても、その権限は市にありません。
できるのは県への要望までです。
これは「だから何もできない」という話ではありません。
市にできることと、県の仕事を切り分けて考えないと、実効性のある提案にならないということです。
■ 事実2 「譲渡先がないから殺す」は、すでにゼロです
千葉県の統計を見てみます。
令和6年度に千葉県動物愛護センターで殺処分された数は、犬98頭、猫158頭。この数には収容中に亡くなった数も含まれます。
重要なのは、県が国の基本指針に沿って殺処分を3つに分類していることです。
令和5年度の内訳を見ると、全体330頭のうち、
①治癒の見込みがない病気や攻撃性があるなど譲渡することが適切でないものが158頭、
②それ以外の処分、つまり譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難なものが0頭、
③引取り後の死亡が172頭でした。
②がゼロ。これは、健康で譲渡可能な犬猫を、引き取り手がないという理由で処分することは、すでに行われていないということです。
残っているのは、助けられない病気や危険性がある個体と、収容後に亡くなってしまう個体です。そして③の多くは、離乳前の子猫だと考えられます。
ここから分かるのは、「ゼロにしろ」と叫んでも減らない領域に、数字が入ってきているということです。
■ では、何をすれば減るのか
答えははっきりしています。子猫を生まれさせないこと、つまり上流対策です。
千葉県の資料も、引き取られる猫の多くが「飼い主のいない(またはわからない)子猫」であることが問題を深刻にしている、と明記しています。
そして上流対策こそ、市ができる仕事です。
松戸市は平成26年度から「飼い主のいない猫の不妊・去勢手術費補助事業」を実施しています。
令和7年度からは補助額が引き上げられ、1件につきオス10,000円、メス16,000円(妊娠中のメスを含む)を限度に交付されます。
1人につき10件まで。市の予算額は2,780,000円です。
手術を受けた猫は、オスは右耳、メスは左耳をV字にカットします。いわゆる「さくらねこ」です。
あわせて市は、公益財団法人どうぶつ基金の「さくらねこ無料不妊手術事業」にも参加し、地域猫活動を行うボランティア団体と連携してTNR(捕獲・不妊去勢・元の場所へ戻す)を進めています。
猫を捕獲する保護器の無料貸出も行っています。
制度としては、きちんと組まれています。
■ 課題1 予算枠は、年に約170件分
ただし、ここに数字の壁があります。
予算額278万円をメス1頭16,000円で割ると、およそ174件分です。
オスとの組み合わせによって多少増えますが、年間200件前後が上限ということになります。
猫は年に2回から3回出産し、1回に4頭前後を産みます。
計算すれば分かりますが、不妊手術が追いつかなければ数は増え続けます。
しかもこの補助金は、予算額に達し次第受付を終了します。
年度の途中で終われば、それ以降に手術をした人は自己負担です。
地域猫活動をしている方は、多くが個人の持ち出しで動いています。
実際の手術費用は補助額を上回ることが一般的なので、補助があっても自己負担は残ります。
■ 課題2 ここからが本題です。飼い主が、老いていきます
さて、ここからが私が最も書きたかったことです。
飼い主のいない猫を減らす活動は重要です。しかし、犬や猫が行き場を失う原因は、野良猫の繁殖だけではありません。
飼い主が高齢になり、入院する。施設に入る。認知症になる。そして亡くなる。
そのとき、残されたペットはどうなるのか。
この問題は、動物の問題の顔をしていますが、中身は高齢者福祉の問題です。
そして多くの場合、周囲が気づくのは手遅れになってからです。
多頭飼育崩壊も同じ構造です。
繁殖を止められないまま頭数が増え、本人の生活も衛生状態も悪化していく。
その背景には、経済的な困窮、社会的な孤立、心身の不調があることが知られています。環境省も、この問題を動物部局だけで扱わず、福祉部局との連携が必要だとする考え方を示しています。
つまり、動物の問題として対処しようとすると、必ず行き詰まります。人の支援として入らなければ、根本は変わりません。
■ 行政書士として言えること
ここは私の専門領域に重なります。
飼い主が亡くなった後、ペットがどうなるかは、生前の備えで大きく変わります。
遺言で、ペットの世話を条件に財産を遺す方法があります(負担付遺贈)。
生前に契約を結んでおく方法もあります(負担付死因贈与)。
信託の仕組みを使い、飼育費用を管理する人と世話をする人を分ける方法もあります。
入院や死亡後の手続きをあらかじめ委任しておく契約もあります。
専門的な話に聞こえるかもしれませんが、要点はひとつです。
「自分に何かあったとき、この子を誰が引き取るのか」を、元気なうちに決めて、書面にしておくこと。
これをしないまま飼い主が倒れると、ペットは行き場を失い、最終的に県の施設に引き取られます。そして引取りの理由として統計に計上されます。
殺処分の上流は、野良猫だけではなく、私たちの老いの中にもあるのです。
■ 課題3 災害が起きたら、一緒に逃げられますか
もうひとつ、実務的な論点があります。
国は災害時のペットとの「同行避難」を推奨しています。
一緒に避難することです。ただし誤解されがちですが、同行避難は「避難所で同じ空間に居られること」を意味しません。多くの場合、ペットは屋外や別室での飼育になります。
松戸市では、避難所の指定に関して令和8年4月1日付で変更があり、ペット同行避難所についても見直しが行われています。
つまり、数年前に確認した情報のままでは、いざというときに違う場所へ行ってしまう可能性があります。
飼い主側の備えも必要です。
ケージに慣らしておくこと。最低数日分のフードと水、常備薬を用意すること。ワクチンとノミ・ダニの予防をしておくこと。迷子になったときのためにマイクロチップを登録しておくこと。
災害時に「ペットがいるから避難できない」という判断は、人の命にも関わります。
これは動物愛護ではなく、防災の論点です。
■ 提案1 補助金を、実際に必要な規模に近づける
年間200件前後という枠が、松戸市の実情に合っているのか。市内で活動しているボランティアの方々が、どれだけ自己負担しているのか。
まずはこの実態を把握すべきです。そのうえで、予算の規模と、年度途中で終了する運用のあり方を見直す。
残額を市のサイトで公表するだけでも、活動する側の計画は立てやすくなります。
■ 提案2 「ペットの終活」を、高齢者支援の中に組み込む
地域包括支援センターやケアマネジャー、民生委員の方々は、高齢者のお宅を訪問しています。その場に犬や猫がいることは珍しくありません。
飼い主が入院したら誰が世話をするのか。
この問いを、支援の現場で一度確認する。それだけで、事態が深刻化する前に手を打てます。
市として、ペットを飼っている高齢者向けの相談窓口や情報提供を整えるべきだと考えます。預け先の情報、費用の目安、備えておくべき書類。情報があるだけで、動ける人は動けます。
■ 提案3 多頭飼育崩壊を、福祉の入口として扱う
苦情が来てから動くのでは遅すぎます。
生活困窮、高齢、精神疾患、社会的孤立。これらの兆候と動物の問題は、しばしば同時に現れます。
環境部門と福祉部門が情報を共有し、早期に介入できる仕組みを整えるべきです。
動物を取り上げることが目的ではありません。人を支えることで、結果として動物も救われるという設計です。
■ 提案4 避難所のペット受け入れ情報を、分かりやすく公表する
どの避難所でペットを受け入れるのか。どのような条件なのか。ケージは持参か。
この情報が一覧で見られるようにすること。そして、ペット同伴を想定した避難訓練を実施すること。訓練していないことは、本番ではできません。
■ 提案5 譲渡の出口を、市としても支える
引取りを減らす上流対策と同時に、新しい飼い主を見つける出口も必要です。
権限は県にありますが、市ができることはあります。
譲渡会の情報を市の広報やSNSで発信する。公共施設を譲渡会の会場として提供する。活動団体との連携を強める。
予算をほとんどかけずにできることが、まだ残っています。
■ 動物の話をしながら、人の話をしています
ここまで書いてきて、気づかれたかもしれません。
この記事に出てくるのは、高齢者の入院、認知症、生活困窮、社会的孤立、災害時の避難。どれも人の問題です。
犬や猫が行き場を失うとき、その背景にはたいてい、人の暮らしの行き詰まりがあります。
だから、動物を守ろうとすれば、人を支えることになる。逆に、人を支える仕組みを整えれば、動物の問題も減っていきます。
「殺処分ゼロ」というスローガンに、私は反対しません。
ただ、そこで止まらずに、なぜ行き場を失うのかという上流まで遡りたい。数字を見て、権限を確認して、市にできることから着実に。
それが、本当に命を守る仕事だと考えています。
松戸市の犬猫に関する問い合わせ先は、環境部 環境保全課(電話047-366-7336)です。飼い主のいない猫の不妊・去勢手術費補助金は、オンライン申請も可能です。