松戸市には、水道事業者が2つあります|値上げの次に来るか!?「ウォーターPPP」という選択
2026年10月5日
今年4月、水道料金が上がりました。
ただ、その実感は人によって違ったはずです。なぜなら松戸市には、水道事業者が2つあるからです。
このことをご存じの方は、意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、この知られざる構造から始めて、水道と下水道がこれからどうなるのか、そして隣の柏市が選ぼうとしている道について書きます。

■ 同じ松戸市なのに、水道の会社が違う
松戸市の上水道は、千葉県営水道と松戸市営水道という2つの事業体が、それぞれ給水区域を定めて給水しています。
市営水道の区域は、新松戸、小金、幸田、大金平、中金杉、平賀、常盤平1丁目から7丁目など。市の北部から西部にかけての一帯です。
それ以外の地域は、千葉県企業局の県営水道になります。根木内の一部は、さらに流山市の区域です。
つまり、同じ松戸市民でも、住んでいる場所によって水道の請求元も料金体系も違います。
引っ越してきた方はもちろん、長く住んでいる方でも、自分がどちらの区域か把握していないことは珍しくありません。
そして下水道は、全域が松戸市の事業です。ただし使用料の徴収は、令和3年1月から県営水道区域では千葉県企業局が水道料金と一括で行っています。
水道は県と市、下水道は市、徴収は県。この入り組んだ構造が、水の問題を分かりにくくしています。
■ 値上げは、すでに起きています
令和8年4月1日、千葉県営水道は料金を改定しました。平均18.6%の値上げです。
理由は、老朽化した設備の更新費用と物価の上昇とされています。
同じ日に、松戸市営水道も料金を改定しました。
一方で、物価高騰対策として、令和8年7月検針分から10月検針分までは水道料金の減免が実施されています。
つまり、いま私たちが目にしている水道料金は、値上げと減免が重なった一時的な姿です。
減免が終われば、改定後の料金がそのまま請求されます。
ここで押さえておきたいのは、この値上げが始まりに過ぎないということです。
■ 全国の水道が、同じ問題を抱えています
高度経済成長期に全国で整備された水道管と下水道管が、一斉に更新時期を迎えています。
人口は減り、節水機器は普及し、使用水量は減る。収入が減る一方で、更新にかかる費用は膨らんでいく。
これが全国の水道事業が直面している構造です。
松戸市も例外ではありません。
市民の皆様が負担している下水道使用料は、施設の維持管理費と、下水道管などの建設のために借り入れた資金の返済に充てられています。
借金の返済が含まれているということは、過去に整備した分の支払いが今も続いているということです。
そして、これから更新する分の費用は、また新たに必要になります。
■ 隣の柏市が、大きな決断をしようとしています
ここで注目すべきなのが、柏市の動きです。
柏市は、令和9年度の事業開始を目指して「ウォーターPPP」の導入準備を進めています。
令和7年8月に実施方針案を公表し、同年11月には事業者向けの説明会も開催しました。
内容を見ると、規模の大きさが分かります。
対象は、下水道の管路施設約1,360キロメートル、水道の管路施設約1,460キロメートル、さらにポンプ場66か所や水源地5か所など。概算の事業費は約267億円。事業期間は2028年1月から2038年1月までの10年間です。
方式は「管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5)」と呼ばれるもので、上下水道を一体で民間に委ねます。
柏市は国土交通省のガイドライン策定業務でフィールド都市にも選定されており、全国の先行事例として注目されている立場です。
そして千葉県内では、柏市のほかに千葉市、船橋市、佐倉市が導入可能性調査に着手し、松戸市も庁内で検討を開始したと報じられています。
つまり、これは他人事ではありません。
■ ウォーターPPPは「民営化」ではありません
ここを誤解してはいけないと思います。
ウォーターPPPは、水道を民間企業に売り渡すことではありません。
施設の所有権は自治体に残したまま、維持管理と更新を一体的に民間へ委ねる仕組みです。
国がこれを推進している理由も明確です。自治体の技術職員が減り続けるなか、管路の点検も設計も発注も自前では回らなくなってきている。
ならば民間の技術とノウハウを使い、まとめて委ねた方が効率的ではないか、という発想です。
また、国の交付金の要件にも関わります。柏市が導入を急ぐ背景には、下水道管の改築に交付金を使うための要件を満たす必要があるという事情も報じられています。
一方で、懸念もあります。長期契約によって自治体側に技術が残らなくなるのではないか。
料金やサービスの質が下がらないか。契約期間の途中で事業者の経営が傾いたらどうするのか。
賛成か反対かではなく、何をどう委ねるかが問われる話です。
■ ここからは、行政書士としての視点です
私が日々向き合っているのは、許認可と契約です。だからこそ、この問題を見たときに真っ先に気になるのは、理念ではなく契約書の中身です。
ウォーターPPPの成否は、おそらく次の3点で決まります。
第一に、要求水準書です。
民間に何をどの水準で求めるのか。これが曖昧なら、後から「契約に書いていない」という話になります。逆に細かすぎれば、民間の創意工夫は生まれません。この設計の巧拙が、10年間を左右します。
第二に、モニタリングです。
きちんと履行されているかを誰がどう確認し、問題があったとき何ができるのか。契約に違約金や改善命令の規定がなければ、実質的に手が出せません。
第三に、議会と市民の関与です。
10年の契約は、市長の任期を超え、市議の任期も超えます。その間、議会がどこまで内容を確認できるのか。情報公開の対象とするのか。ここを契約締結の前に決めておく必要があります。
契約書は、できてしまえば動かせません。だからこそ、締結の前に議論すべきなのです。
■ そして、地元の事業者はどうなるのか
もうひとつ、あまり語られない論点があります。
水道や下水道の工事を実際に担っているのは、地元の事業者です。
給水装置工事を行うには指定給水装置工事事業者の指定が必要で、排水設備工事も市の指定工事店でなければ施工できません。
ウォーターPPPでは、広い範囲の業務が一括して発注されます。その規模に応えられるのは、どうしても大手の企業グループになります。
もちろん、地元の事業者が下請けとして参加する道はあります。
しかし、元請けとして市と直接契約していた事業者が下請けに回れば、利益率も発言力も変わります。
災害時に真っ先に現場へ駆けつけてくれるのは地元の業者ですが、その体力が削がれれば、いざというときの復旧力にも影響します。
効率化と、地域の対応力。この両立をどう設計するかは、契約の中に書き込むしかありません。
■ 松戸市に求めたい5つのこと
以上を踏まえて、提案します。
第一に、検討状況を公表することです。
松戸市は庁内で検討を開始したと報じられていますが、どこまで進んでいるのか市民には見えません。導入可能性調査を行うのであれば、その結果を公表すべきです。
第二に、柏市の事例を徹底的に研究することです。
隣接市が全国の先行事例として進めているのですから、これを使わない手はありません。実施方針案も説明会の資料も公表されています。うまくいった点も、課題も、後から追う自治体の最大の利点です。
第三に、地元事業者の参画要件を契約に明記することです。
地域要件、災害時の協力体制、下請けへの適正な価格転嫁。曖昧にすれば、必ず後回しにされます。
第四に、料金改定とPPPの議論を混同しないことです。
値上げの説明の中でPPPを持ち出せば、「民間委託すれば値上げしなくて済む」という誤解を生みます。コスト削減効果には限界があり、更新費用そのものが消えるわけではありません。正直に説明すべきです。
第五に、県営水道と市営水道の二重構造について、市民への情報提供を強化することです。
自分の地域がどちらなのか、料金はいくら違うのか、問い合わせ先はどこか。これを知らない市民が多すぎます。
■ 蛇口の向こう側を、見てみませんか
水道は、使えて当たり前のインフラです。だからこそ、誰も関心を持ちません。
しかし今年、料金は上がりました。これから下水道でも同じ議論が来ます。
そして隣の市では、10年で267億円という規模の契約が結ばれようとしています。
決まってから知らされるのと、決まる前に議論するのとでは、まったく違います。
蛇口をひねれば水が出る。この当たり前を次の世代に引き継ぐために、何をどこまで委ね、何を自分たちの手に残すのか。
契約書が作られる前に、議論を始めるべきだと考えます。
松戸市営水道に関する問い合わせ先は松戸市水道部、下水道に関する問い合わせ先は建設部 下水道経営課(電話047-366-7394)です。県営水道については千葉県企業局が窓口となります。