墓じまいは、後ろめたいことではありません|松戸市の改葬手続きと、その前に知っておきたいこと
2026年10月7日
こんにちは。闘う行政書士の照井りょうです。
墓じまいの相談を受けるようになって、気づいたことがあります。
多くの方が、こう尋ねるのです。「松戸市の霊園って、どこにありますか」と。
答えは、こうなります。松戸市には、市営の霊園はありません。
では市内に公営の霊園がないのかというと、そうではない。むしろ、とてつもなく大きな霊園があります。ただし、それは東京都のものです。
今回は、この不思議な状況から話を始めます。

■ 松戸市にある、東京都の霊園
都立八柱霊園。新八柱駅から徒歩20分ほどの場所にあります。
面積は約105ヘクタール、東京ドームおよそ22個分。都立霊園では多磨霊園に次ぐ規模で、区画数はおよそ65,000から80,000。松戸市内で最大級の緑地でもあります。
開園は昭和10年7月1日。当時の東京市が、市内の墓地不足に対処するため、市域の外である千葉県東葛飾郡八柱村に造りました。
「霊園」という名称を最初に使った施設でもあります。正門から続く約700メートルの参道にはケヤキ並木があり、園内にはフランス風の幾何学模様の庭園があります。
昭和18年、都制の施行により東京市営から東京都営へ。
そして今も、千葉県松戸市にありながら、東京都の施設であり続けています。
都立霊園のうち、東京都の外にあるのは、ここだけです。
■ そして、松戸市民だけが申し込めます
ここからが、多くの市民が知らない事実です。
都立霊園に申し込むには、通常、東京都内に一定期間住んでいることが条件になります。千葉県民は申し込めません。
ところが八柱霊園だけは違います。令和8年度の募集要項では、一般・芝生埋蔵施設は「都内または千葉県松戸市に5年以上継続して居住していること」、合葬埋蔵施設は「3年以上」が条件とされています。
つまり、松戸市民は東京都民と同じ土俵で申し込めるのです。
隣の柏市民も、鎌ケ谷市民も、流山市民も申し込めません。立地への配慮として、松戸市民にだけ利用枠が開かれている。全国を見渡しても、きわめて珍しい状況です。
価格も、民間霊園と比べれば抑えられています。市内の一般墓の相場がおよそ165万円とされるなかで、八柱霊園の永代使用料は35万円前後から。
合葬埋蔵施設であれば、1体あたり12万9千円という区分もあります。
松戸市に市営霊園はない。けれども、市民は都立霊園という選択肢を持っている。この構造を知っているかどうかで、選べる道の幅が変わります。
■ ただし、墓じまいの許可を出すのは松戸市です
もうひとつ、知っておいていただきたいことがあります。
お墓を移したり、墓じまいをしたりすることを、法律上は「改葬」といいます。
墓地埋葬法により、改葬には現在お骨が納められている場所の市区町村長の許可が必要です。
八柱霊園は東京都の施設です。しかし所在地は松戸市。
したがって、八柱霊園のお墓を墓じまいする場合、改葬許可を出すのは松戸市長です。
窓口は市民課または各支所になります。
東京都の霊園なのに、許可は松戸市。
都民の方からすれば、わざわざ松戸市役所まで来ることになります。
逆に言えば、松戸市は毎年、相当数の改葬許可を処理しているはずです。
市内には八柱霊園のほかにも寺院墓地や民間霊園が数多くあり、そのすべてからの改葬が市の窓口に集まってくるからです。
■ 行政書士として見た、手続きの現実
ここからは実務の話をします。改葬の手続きは、思っているより複雑です。
必要なものは、大きく3つあります。
ひとつ目は、いま遺骨が納められている墓地の管理者による埋蔵証明。
申請書の中に証明欄があり、そこに管理者の署名押印をもらいます。
ふたつ目は、移す先の受入証明書。永代使用許可証などで代用できる場合もあります。
みっつ目は、申請者が墓地の使用権者と異なる場合の承諾書です。
そして重要なのは、遺骨1体につき申請書が1枚必要だということ。
先祖代々のお墓で5体のご遺骨が納められていれば、5枚の申請が必要になります。
実務で詰まるのは、たいてい次の2つです。
ひとつは、墓地の名義人がすでに亡くなっているケース。
この場合、まず使用権の承継手続きをしてからでないと、改葬の申請ができません。ここで止まる方が本当に多い。
もうひとつは、親族間の合意です。
法律上の必要書類ではなくても、後から「聞いていない」と言われれば争いになります。
だから私は、手続きに入る前に必ず、親族への説明を済ませているか確認します。
なお、知っておくと得なこともあります。
分骨の場合は、市区町村の証明は必要ありません。ご遺骨の一部を手元に置いたり、別の場所に納めたりする場合、改葬許可とは扱いが異なります。
■ 八柱霊園の墓じまいには、カレンダーがあります
八柱霊園特有の事情もお伝えします。
八柱霊園の合葬埋蔵施設へ移す場合、申請できる時期が年に3回と決まっています。
7月中旬から下旬、10月中旬から下旬、12月中旬から下旬です。
そして申請から使用許可が出るまで、2か月程度かかります。
つまり、7月に申請すれば工事は10月以降、10月なら12月以降、12月なら翌2月以降になります。
「年内に片づけたい」と思って秋に動き始めても、実際の工事は年を越す。このスケジュール感を知らずに石材店と話を進めると、予定が合わなくなります。
■ ここで、前回の話とつながります
先日、引き取り手のないご遺体と遺骨について書きました。
全国で年間およそ4万2千人が、誰にも引き取られないまま亡くなっています。
墓じまいと、引き取り手のない遺骨。一見すると正反対の話に見えますが、実は同じ問題の表と裏です。
お墓を継ぐ人がいない。遠方に住んでいて管理できない。
経済的に維持が難しい。こうした事情で、お墓は無縁化していきます。
そして放置された末に、最終的に行き場を失う。
墓じまいは、その前に手を打つ行為です。自分の代で整理をつけ、次の世代に負担を残さない。決して後ろ向きな選択ではありません。
■ では、松戸市は何をすべきか
ここから提案です。
第一に、改葬許可申請の電子化と郵送対応です。
遠方にお住まいの方から、「松戸市の改葬許可は窓口に行かないと取れないのか」というご相談を受けることがあります。
他の自治体では電子申請を導入し、許可証を郵送で届けている例もあります。
故郷のお墓を整理したいと考える方の多くは、すでに別の土地に住んでいます。
その方々に松戸市役所まで足を運ばせる必要が、本当にあるのか。
申請書をウェブからダウンロードできるようにするだけでも、負担はかなり減ります。
第二に、終活と墓じまいの相談窓口です。
お墓の話は、相続、空き家、後見、そして葬送と、すべてつながっています。
しかし市役所では、担当する課がばらばらです。
高齢者支援の窓口で「お墓はどうされますか」と一言尋ねる。
市の終活関連の案内に、改葬の手続きと八柱霊園の選択肢を載せる。
それだけで、知らずに困る人は減ります。
第三に、公営の受け皿について検討することです。
松戸市には市営の霊園も合葬墓もありません。
市民が選べるのは、八柱霊園か、民間の霊園・寺院墓地です。
八柱霊園には合葬埋蔵施設がありますが、申込時期は年3回、しかも都民との競争になります。
民間の永代供養墓は、市内の相場で66万円前後。
継ぐ人がいない方、費用を抑えたい方が、安心して選べる受け皿が市内にあるか。
これは、前回書いた引き取り手のない遺骨の問題とも直結します。
今すぐ造れという話ではありませんが、近隣市の状況も含めて、検討を始めるべき時期だと考えます。
第四に、八柱霊園という資産を、もっと活かすことです。
105ヘクタール。松戸市内でこれほどの緑地は他にありません。桜も紅葉も美しく、近隣の方の散歩コースにもなっています。
しかし、これは東京都の施設です。松戸市が自由にできるわけではなく、固定資産税も入りません。
だからこそ、都との連携が重要になります。公園としての活用、災害時の一時避難場所としての位置づけ、周辺道路やバス路線の整備。
市内最大の緑地が都の施設であるという特殊な条件を、不利ではなく有利に変える発想が必要です。
■ お墓は、残された人のためにあります
最後に、実務を通じて感じていることを書きます。
墓じまいの相談に来られる方は、たいてい後ろめたさを抱えています。
先祖に申し訳ない、親族に責められるのではないか、と。
けれども、お墓は亡くなった方のためだけにあるのではありません。
残された人が、無理なく手を合わせ続けられること。そのための場所です。
年に一度も行けない場所に立派なお墓があるより、近くで静かに手を合わせられる方が、ご先祖も喜ばれるのではないかと、私は思います。
松戸市には、市営の霊園はありません。
けれども、市民だけに開かれた広大な霊園があり、そして改葬の許可を出すのは松戸市です。
この街で、どう弔い、どう引き継ぐのか。制度の側から、もう少し支えられるはずだと考えています。
改葬許可申請に関する問い合わせ先は、松戸市 市民部 市民課(電話047-366-7340)です。八柱霊園については、霊園管理事務所(電話047-387-2181)が窓口になります。