松戸の商店街から、2,000の店が消えました|街の灯りを消さないために、市ができること
2026年10月8日
松戸の商店街から、2,000の店が消えました
子どものころ、駅前の商店街には八百屋さんがあって、魚屋さんがあって、おもちゃ屋さんがありました。
買い物の途中で知り合いに会い、店主に名前を呼ばれる。そんな風景を覚えている方も多いと思います。
いま、その風景は松戸の街から静かに消えつつあります。
「なんとなく寂しくなった」ではなく、どれくらい減ったのかを数字で確かめてみました。

小売店は、23年で半分以下になりました
松戸市内の小売店の数は、1991年には3,729ありました。
それが2014年には1,776になっています。23年間で約2,000店、半分以上が姿を消したことになります。

千葉県全体でも小売店は減っていますが、松戸市の減り方は県平均より大きくなっています。
1991年を100とすると、2014年は県全体が53.8、松戸市は47.6です。
減ったのは店の数だけではありません。
2007年から2014年の7年間で、市内の小売業で働く人は約6,300人減り、年間の販売額は約740億円減りました。
松戸市民の買い物は、市外へ流れています
もう一つ気になる数字があります。「小売吸引力」と呼ばれる指標です。
100を超えていれば市外からも買い物客が来ている状態、100を下回っていれば市民の買い物が市外に流れている状態を示します。
松戸市の小売吸引力は、2002年には94.0でした。2014年には75.5まで下がっています。

その後のデータでも、この傾向は変わっていません。
2020年の小売業の年間販売額を人口で割り、市民1人あたりにすると、柏市が約110万円、船橋市が約87万円、松戸市は約71万円です。

松戸市は柏市より人口が6万人ほど多い街です。
それなのに、市内の小売の売上は柏市の4分の3にとどまっています。
2018年には松戸駅前の伊勢丹が閉店しました。駅前の大きな「核」を失ったことも、買い物客が柏や都内へ向かう流れに拍車をかけたと考えられます。
商店街に、人が来なくなっています
千葉県が数年ごとに行っている消費者の買い物調査があります。
地元の商店街を週1回以上使う人は、2018年の46.7%から2024年には38.8%へ減りました。

同じ調査で、ネットで買い物をする人は半数を超えています。
ふだん個人商店で買い物をする人は、わずか2.7%でした。
人口の多い松戸でさえ、商店街は「何もしなければ自然に減っていく」状況にあると言えます。
商店街の街路灯、誰が電気代を払っているか知っていますか?
あまり知られていないことをひとつ紹介します。
商店街を夜照らしている街路灯の多くは、市の持ち物ではありません。
商店会が自分たちで設置し、電気代を払い、修繕してきたものです。
市は電気代の一部を補助していますが、その額は街路灯1基あたり年7,500円です。
残りは加盟店が出し合う会費でまかなわれています。
店が減れば、会費を払う人も減ります。それでも街路灯の数は減りません。
残った店ほど負担が重くなり、やがて商店会そのものが続けられなくなります。
市の補助メニューには、装飾街路灯やアーチの「撤去費」の補助が用意されています。
灯りを守るための制度と並んで、灯りを外すための制度もある。これが、いまの商店街が置かれた現実です。
商店街の灯りは、店のためだけのものではありません。
夜道を歩く学生や、仕事帰りの人、高齢者の安心を支える地域の防犯インフラでもあります。
商店会が力尽きたとき、その灯りを誰が引き継ぐのか。この問題は、まだきちんと議論されていません。
空き店舗の補助は、「継ぐ人」を支えていません
松戸市には、空き店舗に新しく店を出す人を支援する補助金があります。
改装費の半額(上限50万円)と、家賃の半額(月5万円、中心市街地は月7万円まで)を補助する制度です。
ただ、要綱を細かく読むと、いくつか気になる点があります。
まず、家賃の補助は開店から1年間です。
年度ごとに申請が必要で、全額が毎年もらえるとは限りません。
ところが補助を受けた店には、3年間、週5日以上・1日5時間以上の営業が求められます。
小さな店が地域に根づくには、最初の1年だけの支援では足りません。
次に、対象は市内で初めて開く店に限られています。
市内の別の場所から移ってくる店は対象外です。そして、いまある店を誰かが引き継ぐ「事業承継」を支える仕組みはありません。
商店街の店がなくなる理由は、売れないことだけではありません。
店主が高齢になり、継ぐ人がいないまま、まだお客さんのいる店がのれんを下ろす。
いわゆる「黒字廃業」です。空き店舗になってから新しい店を探すより、空き店舗になる前に次の担い手へつなぐほうが、手間も費用もずっと小さくて済みます。
行政書士として見た、小さな店の「手続きの壁」
私は行政書士として、店を始める方や店を継ぐ方の手続きに関わってきました。
飲食店を開くなら、保健所の営業許可が必要です。
中古品を扱うなら古物商の許可、お酒を売るなら酒類の販売業免許がいります。
店を継ぐ場合も、許可はそのまま引き継げるものと、取り直しが必要なものがあります。
親から子へ継ぐときでさえ、名義の変更、相続、賃貸借契約の切り替えが重なります。
大きなチェーン店には、こうした手続きを担当する部署があります。
でも、街の個人商店は店主ひとりでこれを抱えます。手続きの複雑さが「もう、うちの代でおしまいにしよう」という判断を後押ししている場面を、私は何度も見てきました。
では、松戸市は何をすべきか
提案1 空き店舗補助を「継ぐ人」にも広げる
新しく来る店だけでなく、いまある店を引き継ぐ人も補助の対象に加えます。
家賃の補助は1年で打ち切らず、2年目、3年目と段階的に減らしながら続ける形にし、店が根づくまで支えます。
提案2 商店街の「事業承継」窓口をつくる
後継者のいない店と、店を持ちたい若い人をつなぎます。
許認可の引き継ぎ、契約の切り替え、相続まで、商工会議所や専門家と連携して一か所で相談できるようにします。
黒字廃業を一つでも減らすことが、空き店舗対策の一番の近道です。
提案3 街路灯を「地域の灯り」として守るルールをつくる
商店会の街路灯は、防犯の面では町会の防犯灯と同じ役割を果たしています。
商店会が続けられなくなったときに、町会や市が引き継げるルールを前もって決めておきます。
灯りを守る負担を、残った数軒の店だけに背負わせない仕組みが必要です。
提案4 個人商店を、地域の「見守り拠点」として位置づける
毎日同じ時間に来るお客さんが、ある日来ない。顔なじみの店主は、その変化に最初に気づける存在です。
団地の商店街や駅前の小さな店を、高齢者の見守りや子どもの「かけこみ先」として市が正式に位置づけ、その役割に応じた支援を行います。
買い物の場所であるだけでなく、街の安心を支える場所として商店街を残していきます。
店がなくなると、街から「顔」がなくなります
ネットで買えば、モノは翌日に届きます。
それでも「いつもの」と言えば通じる店や、子どもの成長を覚えていてくれる店主は、ネットの向こうにはいません。
商店街の衰退は、時代の流れで仕方のないことだと言われます。
でも、店が消えていく理由を一つずつ見ていくと、「継ぐ人を支える」「灯りの負担を分け合う」といった、市が手を打てる部分も残っています。
松戸の街から、これ以上「顔」が消えないように。小さな店の声を、市政に届けていきます。
小売店数(1991〜2014年)、小売吸引力、個人経営の割合:松戸市商業構造基本調査報告書(平成29年1月)
市民1人あたりの販売額:令和3年経済センサス-活動調査の市町村別販売額を、2021年当時の人口(松戸約49.8万人、柏約43.2万人、船橋約64.3万人)で割った概算
商店街を使う人の割合、ネット通販:千葉県の令和6年度消費者購買動向調査(県全体の数値で、松戸市単独の数値ではありません)
小売店数の推移が2014年で止まっているのは、その後の統計(経済センサス)では数え方が変わり、直接比べられないためです。
〈参考文献〉
松戸市 商業構造基本調査報告書 第2章
松戸市 商業構造基本調査報告書 第6章
松戸市 商業構造基本調査報告書 第7章
松戸市商業ビジョン 概要版
松戸市の商店会補助・支援制度
令和8年度 松戸市商店街商業事業者誘致促進事業補助金 要領
千葉県 令和3年経済センサス-活動調査 卸売業・小売業の概要
千葉県 令和6年度消費者購買動向調査 結果
千葉県 令和6年度消費者購買動向調査 第4章
千葉県 令和6年度消費者購買動向調査 第6章