松戸の教室に、日本語がわからない子がいる|外国人の子どもの教育と、先生たちの限界
2026年10月24日
4月、小学校のクラスに新しい友だちがやってきます。でも、その子は日本語がほとんど話せません。
先生の説明も、黒板の字も、給食の時間の決まりも、何ひとつわからない。隣の席の子は、どう声をかければいいのか戸惑っています。
担任の先生は、30人のクラスを見ながら、その子にも付きっきりになるわけにはいきません。
いま、こうした光景が松戸の学校で珍しくなくなっています。

■ 松戸市の外国人住民は、人口の5%を超えた
松戸市に住む外国人は、およそ2万8千人。100を超える国と地域の人たちが暮らしています。人口に占める割合は5%を超えました。
国籍別に多いのは、中国、ベトナム、ネパール、フィリピン、韓国です。かつては中国や韓国の方が中心でしたが、最近はベトナムやネパールの方が大きく増えています。
働く世代の方が増えれば、家族を呼び寄せる人も増えます。そして、子どもたちは地域の学校に通います。
■ 日本語の指導が必要な子どもは、全国で8万5千人
国の調査では、全国の公立学校で日本語の指導が必要な児童生徒は、2025年度に8万4,759人となり、過去最多を更新しました。2012年度の3万3,184人から、13年でおよそ2.5倍です。
増えているのは、ほとんどが外国籍の子どもたちです。

■ 松戸市でも、多くの学校に日本語支援が必要な子がいる
松戸市が2024年度に日本語支援で対応した児童生徒は、小学生が241人、中学生が55人、市立松戸高校の生徒が5人でした。小学生は39校、中学生は18校に在籍しています。
市内のほとんどの学校に、日本語の支援が必要な子どもがいることになります。
ところが、日本語の「特別の教育課程」として、決まった時間に専門的な指導を受けられた小学生は171人、16校にとどまりました。

松戸市では、日本語指導の担当教員がいる学校には「にほんごルーム」を置き、そうでない学校には日本語指導の補助員やボランティアを派遣しています。
2026年度からは、来日して間もない子どもが学校に入る前に日本語の基礎を学ぶ「プレスクール」も始まりました。
それでも、市自身が次のような課題を挙げています。
・日本語支援が必要な子どもが増え、一人の支援者が対応できる人数に限界がある
・担当教員がいない学校では、きめ細かな指導が難しい
・「にほんごルーム」のある学校とない学校で、支援の中身に差が出てしまう
・市全体の日本語支援を担当する課がない
・翻訳機などの設備が、学校によってばらばら
現場の先生たちは、もう限界に近いところで踏ん張っています。
■ 困っているのは、外国人の子どもだけではない
この問題を「外国人の問題」として片づけてしまうと、大切なことを見落とします。
日本語がわからない子が教室にいれば、担任の先生はその子への説明に時間を取られます。授業の進め方に悩み、保護者への連絡にも苦労します。学校からのお知らせが伝わらず、持ち物や提出物、行事の決まりがわからないまま、という家庭もあります。
日本の学校の習慣を知らないことで、周りの子どもや保護者との間に誤解が生まれることもあります。
つまり、日本語の壁を放っておくと、外国人の子どもだけでなく、同じクラスの日本人の子ども、先生、保護者みんなに負担がかかるのです。逆に言えば、日本語の支援をしっかり行うことは、教室全体を守ることにつながります。
■ 言葉の壁は、進路の壁になる
もうひとつ深刻なのは、子どもたちの将来です。
国の調査で、日本語の指導が必要な生徒の高校などへの進学率は91.5%でした。全体の98.9%と比べると、7ポイント以上低くなっています。高校卒業後に大学などへ進む割合は41.2%で、全体の75.0%を大きく下回ります。
さらに、高校を出て就職した人のうち、非正規で働く人の割合は49.6%でした。全体ではわずか6.5%です。

日常会話は半年ほどで話せるようになる子も多いといいます。しかし、算数の文章題や社会の教科書を読むための「学ぶための日本語」を身につけるには、何年もかかります。ここでつまずくと、授業についていけず、進学をあきらめることになりかねません。
■ 行政書士として見てきた「在留資格」の壁
私は行政書士として、外国人の在留資格の手続きに携わってきました。その経験から、もうひとつ知っていただきたい壁があります。
親の仕事に合わせて来日した子どもの多くは、「家族滞在」という在留資格で暮らしています。この資格では、原則として週28時間以内のアルバイトしかできず、そのままでは正社員として働くことができません。
日本の高校を卒業し、就職先が決まれば、条件を満たすことで「定住者」や「特定活動」に資格を変えられる仕組みがあります。
けれども、この仕組みを知らない家庭や先生は少なくありません。せっかく日本で育ち、日本語も身につけた若者が、手続きを知らないために働き方を選べない。
これは、本人にとっても、人手不足に悩む地域にとっても、大きな損失です。
■ 松戸市への提案
1 日本語支援の「司令塔」をつくる
学校、国際推進課、子ども部門、NPOがばらばらに動いている状態を改め、市全体の日本語支援を担当する部署を決めます。どの学校に、どれだけ支援が必要な子がいるのかを一元的に把握します。
2 担当教員と「にほんごルーム」を増やす
国は、日本語指導が必要な児童生徒18人に1人の割合で教員を配置する仕組みを設けています。この仕組みを最大限に活用できるよう、県に働きかけます。あわせて、子どもが多い学校から順に「にほんごルーム」を広げます。
3 プレスクールを、入学前の子どもにも
2026年度に始まったプレスクールを着実に育てます。そのうえで、小学校に入る前の幼児にも、日本語と学校生活の準備ができる場をつくります。
4 保護者に「伝わる」学校に
学校からのお知らせを、やさしい日本語や多言語で届ける仕組みを全校で整えます。翻訳機などの設備も、学校による差をなくします。あわせて、日本の学校の決まりや習慣を、入学のときに保護者へ丁寧に説明します。
5 進路と在留資格を、セットで伝える
中学生とその保護者に向けて、高校受験の仕組みと、卒業後に働くための在留資格の手続きを、多言語でまとめて伝える説明会を開きます。行政書士など専門家との連携も進めます。
6 地域のNPOと手を組む
松戸市では、NPOが週に一度、外国人の小中学生に日本語を教えています。申し込みが増え、待ってもらう子が出ているといいます。こうした地域の力を、行政が支える仕組みをつくります。
■ おわりに
外国人の子どもたちは、いずれ松戸で働き、家庭を持ち、地域を支える一員になっていく可能性があります。
言葉の壁を越えられれば、その子は地域の力になります。越えられなければ、孤立し、不安定な暮らしに追いやられてしまうかもしれません。
その分かれ道は、小学校や中学校の教室にあります。
外国人を受け入れるかどうかという大きな議論とは別に、すでに松戸で暮らしている子どもたちがいます。
その子たちにしっかり日本語を教えることは、甘やかしではありません。
教室を守り、先生を守り、地域の将来を守るための投資だと、私は考えています。
参考文献
千葉県「千葉県内の外国人住民数(令和7年12月末現在)」
https://www.pref.chiba.lg.jp/kokusai/toukeidata/gaikokujinjumin/r7-12gaikokujinsu.html
松戸市「外国人のための生活ガイドを発行します」(令和8年7月)
https://www.city.matsudo.chiba.jp/shisei/matsudo_kouhou/pressrelease/R8-press-release.files/20260721kokusaisuishin.pdf
文部科学省「外国人児童生徒等の教育に関する現状と課題について」(令和8年6月)
https://www.mext.go.jp/content/20260630-mxt_kyokoku-000050315_003.pdf
文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和7年度)」の結果について
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421569_00007.htm
文部科学省「令和6年度 帰国・外国人児童生徒等教育の推進支援事業 実施報告(松戸市)」
https://www.mext.go.jp/content/20251117-mxt_kyokoku-000043241_081.pdf
松戸市教育委員会「令和8年度教育施策方針」
https://www.city.matsudo.chiba.jp/kyouiku/annai/seisaku/housin/r8_kyouikushisaku.html
松戸市教育委員会「日本語ボランティア・母語ボランティアを募集します(令和8年度)」
https://www.city.matsudo.chiba.jp/kyouiku/kyoiku_saiyo/gakkou/nihongobogovolunteer.html
松戸市「松戸市多文化共生庁内推進指針」(令和6年2月改訂)
https://www.city.matsudo.chiba.jp/kurashi/tabunka/tabunkakeii.files/cyonaishishin.pdf
千葉県「県内市町村の国際化施策(令和5年度)」
https://www.pref.chiba.lg.jp/kokusai/kokusaikouryuu/kokusaishisaku/documents/r5-7.pdf
認定NPO法人 外国人の子どものための勉強会「2025年千葉日報掲載記事」
https://www.esco-matsudoedu.org/entry/2025/06/16/212641
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