照井りょう(てるいりょう)千葉県松戸市

生活保護は誰のための制度か|憲法25条から外国人の扱いまで、条文と判例で読み解く

「外国人が生活保護を受けているのはおかしい」といったように、生活保護をめぐっては、さまざまな声があります。

病気や失業、高齢など、誰でも思いがけず生活に困ることはあります。生活保護は、そんなときに私たちの暮らしを支える「最後のセーフティネット」です。

外国人への生活保護の支給について賛成するにしても反対するにしても、まずは制度の仕組みを正しく知ることが大切です。
行政書士として行政の手続きや処分に関わる仕事をしてきた立場から、憲法、法律、判例をもとに、生活保護の趣旨をできるだけわかりやすく整理してみます。

■ 出発点は憲法25条

生活保護の土台にあるのは、日本国憲法25条です。

憲法25条1項
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」

憲法25条2項
「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」

これが、いわゆる「生存権」です。どんな人でも、人として最低限の暮らしは保障される。その考え方が、生活保護制度の根っこにあります。

■ 憲法25条だけでは、お金は受け取れない

ただし、憲法25条があるからといって、それだけで国に対して「お金を払え」と請求できるわけではありません。

このことを示したのが、生活保護の歴史に残る朝日訴訟の最高裁判決(昭和42年5月24日)です。
最高裁は、憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営めるように国政を運営する責務を国に宣言したものであり、個々の国民に直接具体的な権利を与えたものではないと述べました。
そのうえで、具体的な権利は、憲法の趣旨を実現するために作られた生活保護法によって初めて与えられる、としています。

さらに、障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止が争われた堀木訴訟の最高裁判決(昭和57年7月7日)では、憲法25条の趣旨をどのような制度で実現するかは国会の広い裁量に委ねられており、著しく合理性を欠き、明らかに裁量の逸脱や濫用といえる場合でなければ、裁判所は違憲とは判断しない、という考え方が示されました。

つまり、生存権を具体的な形にするのは、国会が作る法律と、それにもとづく行政の運用なのです。

■ 生活保護法が定める「目的」と「4つの原理」

憲法25条を具体化した法律が、生活保護法です。その第1条には、法律の目的がこう書かれています。

生活保護法1条
「この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」

ここで大切なのは、目的が2つあることです。
ひとつは「最低限度の生活の保障」。もうひとつは「自立の助長」です。
生活保護は、ただお金を渡すだけの制度ではなく、困っている人が再び自分の力で暮らせるよう支えることも目的にしています。

生活保護法は、続く条文で4つの基本原理を定めています。

1 国家責任の原理(1条)
生活に困っている人の最低限度の生活を保障するのは、国の責任です。

2 無差別平等の原理(2条)
「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。」
困窮した理由は問いません。要件を満たせば、誰でも平等に保護を受けられます。

3 最低生活保障の原理(3条)
「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。」

4 保護の補足性の原理(4条)
「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」
貯金や家、働く力など、使えるものをまず使う。親族による扶養や、年金などのほかの制度も、生活保護より先に使われます。ただし、命に関わるような急迫した状況では、この原則にかかわらず必要な保護を行うことができます(4条3項)。

■ 具体的な金額は「政省令」と「告示」で決まる

生活保護法を動かすための細かなルールは、政令(生活保護法施行令)と省令(生活保護法施行規則)で定められています。

そして、毎月いくら支給されるのかを決めているのが、厚生労働大臣が定める「保護の基準」(告示)です。
生活保護法8条は、保護は厚生労働大臣の定める基準によって測った需要をもとに行う、と定めています。

保護の種類は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8つです(11条)。

■ 「保護の基準」をめぐる最新の最高裁判決

この「保護の基準」をめぐって、2025年6月27日、最高裁判所第三小法廷が重要な判決を出しました。

国は2013年から2015年にかけて、生活扶助の基準を引き下げました。その理由のひとつが、物価の下落を反映させる「デフレ調整」でした。
最高裁は、この「デフレ調整」について、厚生労働大臣の判断の過程に誤りがあり、裁量の範囲を逸脱した違法なものだと判断し、引き下げにもとづく減額の処分を取り消しました。一方で、国家賠償の請求は認めませんでした。

国の裁量は広いとはいえ、根拠の乏しい基準の引き下げは許されない。最高裁がそう示した意義は大きいと思います。
その後、国は追加の給付を行う方針を示しましたが、その内容をめぐっては原告側から批判も出ています。

■ 外国人は生活保護を受けられるのか

ここからは、外国人と生活保護の関係です。

生活保護法1条と2条は、対象を「国民」としています。つまり、法律の上では、日本国籍を持たない外国人は生活保護法の対象ではありません。

それでも、一部の外国人が生活保護を受けているのはなぜでしょうか。
その根拠は、昭和29年5月8日に出された厚生省社会局長の通知「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」です。
この通知にもとづき、国は人道上の観点から、一定の外国人に対して、生活保護法に「準じた」保護を行っています。法律にもとづく権利ではなく、行政の判断による措置なのです。

現在の厚生労働省の取扱いでは、対象となるのは、日本で適法に暮らし、活動に制限のない在留資格を持つ人に限られています。
具体的には、永住者、定住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等の在留資格を持つ人、特別永住者、難民として認定された人などです。
留学生や技能実習生、就労の在留資格で働く人、観光で来日した人、在留期限を過ぎて滞在している人などは対象になりません。

国の統計では、世帯主が日本国籍でない被保護世帯は、2024年度の月平均で4万7,332世帯でした。これは被保護世帯全体の約2.9%にあたります。

■ 最高裁は「外国人に受給権はない」と判断した

この点について、最高裁判所は平成26年7月18日、はっきりとした判断を示しました。永住者の在留資格を持つ外国人が、生活保護の申請を却下されたことを争った裁判です。

最高裁は次のように述べています。

「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。」

つまり、外国人への生活保護は、あくまで行政の判断による「事実上の保護」であり、外国人が法律上の権利として請求できるものではない、ということです。

■ 外国人の人権は、どこまで保障されるのか

では、外国人の人権は憲法上どう考えられているのでしょうか。

その基本となるのが、マクリーン事件の最高裁判決(昭和53年10月4日)です。(行政書士試験の憲法の勉強でも、おそらく一番最初に触れる判例です。)
最高裁は、憲法が保障する基本的人権は、権利の性質上日本国民だけを対象としているものを除き、日本に暮らす外国人にも等しく及ぶとしました。
ただし、その保障は外国人在留制度の枠内で与えられるにすぎない、とも述べています。

社会保障については、塩見訴訟の最高裁判決(平成元年3月2日)が重要です。
国籍を理由に障害福祉年金が支給されなかったことが争われたこの裁判で、最高裁は、社会保障の施策で在留外国人をどう扱うかは国の政治的な判断に委ねられるとし、次のように述べました。

「その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されるべきことと解される。」

つまり、外国人を社会保障の対象に含めるかどうか、どこまで含めるかは、憲法が一律に決めているのではなく、国会や政府の判断に委ねられているのです。

■ 在留資格と生活保護の関係

行政書士として在留資格の手続きに携わっていると、生活保護と入管制度のつながりを実感します。

たとえば、永住許可を受けるための要件のひとつに、「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」があります(出入国管理及び難民認定法22条2項2号)。
公的な負担に頼らず、自分の力で暮らしていけることが求められているのです。

また、入管法は、生活上、国や地方公共団体の負担となるおそれのある人を、上陸を拒否できる人のひとつに挙げています(5条1項3号)。日本の入管制度は、もともと「自立して暮らせること」を前提に組み立てられています。

■ 議論のために、押さえておきたいこと

外国人への生活保護については、見直しを求める声と、今の取扱いを支持する声の両方があります。

見直しを求める立場からは、次のような主張があります。法律の対象は「国民」であり、通知による措置を続けるのは法治主義の観点から問題がある。財源に限りがある中で、まず自国民を優先すべきだ。在留資格の要件である「自立した生計」とも矛盾する、といった意見です。

一方、今の取扱いを支持する立場からは、こう主張されます。
対象は永住者や日本人の配偶者など、日本に生活の基盤を置き、税金や社会保険料を納めてきた人に限られている。病気や失業などで困窮した人を放置すれば、かえって地域の治安や公衆衛生に悪影響が出る。国際的な人権条約の考え方にも配慮すべきだ、といった意見です。

どちらの立場をとるにしても、大切なのは、正確な事実と法律にもとづいて議論することです。
「外国人は誰でも生活保護を受けられる」という誤解も、「外国人に生活保護は一切認められていない」という誤解も、どちらも事実とは違います。

■ おわりに

生活保護は、憲法25条の生存権を具体化した、私たちの暮らしを支える最後のセーフティネットです。その目的は、最低限度の生活を保障することと、自立を助けることにあります。

外国人への生活保護は、法律ではなく通知による措置であり、最高裁も外国人に法律上の受給権はないと判断しています。その範囲をどう考えるかは、国の政策判断に委ねられたテーマです。

制度を守ることと、制度を正しく運用することは、どちらも欠かせません。本当に困っている人に支援が届き、同時に制度への信頼が損なわれないこと。その両立を目指して、引き続き考えていきたいと思います。

参考文献

日本国憲法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION
生活保護法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000144
出入国管理及び難民認定法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/326CO0000000319
厚生労働省 社会・援護局「生活保護における外国人の取扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/001684937.pdf
厚生労働省 社会保障審議会資料(昭和29年社会局長通知に関する記載)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0608-6d.html
最高裁判所第二小法廷 平成26年7月18日判決(生活保護開始決定義務付け等請求事件)
判示部分の引用は次のページによる
https://law-lib.jp/subjects/1/precedents/14?is_all_shown=true
最高裁判所第一小法廷 平成元年3月2日判決(塩見訴訟)
判示部分の引用は次のページによる
https://law-lib.jp/subjects/1/precedents/13?is_all_shown=true
最高裁判所大法廷 昭和42年5月24日判決(朝日訴訟)
最高裁判所大法廷 昭和57年7月7日判決(堀木訴訟)
最高裁判所大法廷 昭和53年10月4日判決(マクリーン事件)
裁判所ウェブサイト 裁判例検索
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1
最高裁判所第三小法廷 令和7年6月27日判決(生活保護基準引下げ処分取消等請求事件)と、その後の国の対応
弁護士JPニュース「生活保護基準引き下げ、最高裁で『違法』確定も…厚労省が”独自基準”で再減額」
https://www.ben54.jp/news/2974

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