照井りょう(てるいりょう)千葉県松戸市

【第5回】日本にはスパイを防ぐ法律がない!?早急な法整備が求められる理由

こんにちは。
闘う行政書士の照井遼(てるい りょう)です。

これまでの連載では、中国の「国家情報法」が、日本企業や地方自治体、そして日本社会全体にどのような「見えないリスク」をもたらすのかを具体的な事例を交えて解説してきました。

【第1回】中国「国家情報法」が日本社会に突きつける見えない脅威 はコチラ
【第2回】「うちの社員がスパイに?」日本企業が直面する中国人雇用の法的リスク はコチラ
【第3回】平和な「姉妹都市交流」が抜け穴に?地方自治体を狙う情報収集の罠 はコチラ
【第4回】松戸市の事例で考える:国際都市と産学官連携に潜む特有の死角 はコチラ
今回→【第5回】日本にはスパイを防ぐ法律がない!?早急な法整備が求められる理由

最終回となる今回は、視点を少し広げて、両国の「法制度の明確な違い」に焦点を当てます。
この違いを知ることで、なぜ今、日本においてスパイ行為を防ぐための新たな法整備が急務とされているのか、その根本的な理由が見えてきます。

矢継ぎ早に進む中国の「国家安全」法整備
まず、中国が国を挙げてどのように情報・安全保障体制を構築しているのかを振り返ってみましょう。
習近平政権は「法に基づく国家統治」を推進し、国家安全体制の強化に関して法整備を重視してきました。

その中核にあるのが、2014年に打ち出された「総合的国家安全観」という基本方針です。
これは、国家の安全という概念を極めて幅広い分野に適用するものであり、政治の安全、国土の安全、軍事の安全、経済の安全などの11項目が掲げられています。
広範な安全を守るための法的基盤として、中国は驚異的なスピードで法律を制定してきました。
2014年の「反スパイ法」、2015年の「国家安全法」と「反テロリズム法」、2016年の「国外NGO国内活動管理法」と「サイバーセキュリティ法」、そして2017年の「国家情報法」と「核安全法」などです。

つまり、中国は単に一つの法律を作ったわけではなく、「あらゆる分野の情報を国家が統制し、国益を守る」という巨大で強固な法体系の網を完成させているのです。

国家が「合法的に」通信傍受や強制を行う現実
その中でも2017年に施行された国家情報法は、情報機関に極めて強力な権限を与えています。
例えば、同法第15条では、情報機関が業務上必要な場合、通信傍受等を指す「技術的偵察措置」や「身分保護措置」を講じることが法律で明確に認められています。
また、第16条では、立入制限区域への立入りや関係資料の閲覧・押収が認められ、第17条では交通・通信手段や土地建物の優先使用、さらには接収までもが可能とされ、さらに、第28条では、情報機関の活動を妨害した者は、国家安全機関や公安機関によって警告や15日以下の拘留に処され、犯罪を構成するときは刑事責任を追及されると規定されています。

このように、国外メディアからは、中国共産党の一党独裁体制の安定のため、法治の名の下で統制を強めるものであるとの懸念が示されています。
また、同法が国内外の組織や個人に対する監視や情報収集の強化につながりかねないという強い警戒の声もあがっています。

日本の法制度が抱える「致命的な脆弱性」
翻って、日本の現状はどうでしょうか。
結論から言えば、日本には諸外国が備えているような「スパイ行為そのもの」を直接的かつ包括的に取り締まるカウンター・インテリジェンス(対諜報)法制が存在しません。

現在、日本国内で外国の情報機関による組織的な情報収集(例えば、先端技術の窃取など)が行われたとしても、それを「スパイ罪」として裁くことはできません。
現行法では、「不正競争防止法」を用いて営業秘密の持ち出しを罰したり、データが入ったパソコンを盗んだとして「窃盗罪」を適用したりするなど、間接的な法律をパッチワークのように当てはめて対処するしかないのです。

このアプローチには致命的な欠点があります。現行法は「個別の犯罪が起きた後」に対処するものであり、「外国政府の意を受けて、組織的かつ長期的に日本の国益を損なうネットワークを構築する行為」そのものを未然に防ぎ、重罰に処すようには作られていないためです。

「ソフト・ターゲット」からの脱却へ
中国が国家情報法第10条で「国内外において情報活動を行う」と明言し、自国民や企業に対して世界中どこにいても情報提供への協力を義務付けている以上、日本側の法整備の遅れは取り返しのつかない国益の喪失を招きかねません。

相手が明確なルールを定めて国家ぐるみで情報を集めに来る情報戦の時代において、日本側も無防備な状態(ソフト・ターゲット)のままでいることは許されません。
国家の独立、最先端の科学技術、そして何より国民と企業の安全を守るためには、「何がスパイ行為に当たるのか」を法律で明確に定義し、重罰化によってそれらを強力に抑止・摘発するための「防諜法制」の整備が不可欠です。

もちろん、新たな法律を制定するにあたっては、基本的人権の保障や表現の自由、プライバシーの保護といった民主主義国家としての根幹をどう守るかという、極めて慎重かつ建設的な議論が求められます。
しかし、企業や地方自治体が自衛手段の限界に直面している今、国レベルでの強力な法整備と防諜体制の構築は、もはや先送りできない日本全体の喫緊の課題なのです。

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